1 はじめに

離婚時の財産分与には、清算的財産分与、扶養的財産分与、慰謝料的財産分与の3つの要素があります。
清算的財産分与とは、夫婦が結婚期間中に協力して形成した財産を、離婚時に夫婦それぞれの貢献の程度に応じて公平に分配するものです。
通常、単に「財産分与」という場合は、清算的財産分与を意味します。
扶養的財産分与とは、夫婦の一方が離婚後の生活に経済的な不安がある場合に、生活の安定のために他方が補充的な財産分与を行うものです。
離婚によって婚姻関係は終了するので、その後の配偶者の生活を扶養する義務はなく、各自の経済力に応じて生活すべきであると考えられているので、扶養的財産分与が認められるケースは多くありません。
もっとも、高齢、病気、その他専業主婦・専業主夫で無収入であるなど経済的に困窮するおそれがあり、清算的財産分与や慰謝料によって財産を受け取ってもなお経済的に困窮するような場合には、経済的な困窮の程度を考慮して補充的に認められることがあります。
慰謝料的財産分与とは、慰謝料の要素を加味した財産分与です。
通常、不貞行為などがある場合には、財産分与とは別に慰謝料の請求が行われるため、慰謝料的財産分与が問題となることは少ないですが、慰謝料や財産分与の名目を明確に定めずに財産の分配が行われることもあります。
このような財産分与の3つの要素を踏まえ、不動産の財産分与に税金がかかる場合と注意点について、お話しいたします。
2 不動産を財産分与する場合の税金
(1)不動産を受け取った側の税金について
不動産を受け取った側は、不動産の登記名義を変更するにあたって、登録免許税(不動産の固定資産評価額の2%)を納める必要があります。
財産分与の趣旨や目的によって、不動産を受け取った側において、不動産取得税を納める必要があります。
具体的には次のとおりです。
清算的財産分与として不動産を受け取る場合には、不動産取得税を納める必要がありません。
他方で、扶養的財産分与、又は、慰謝料的財産分与として不動産を受け取る場合には、不動産取得税を納める必要があります。
これは、夫婦で形成した財産の清算的な要素に加えて、離婚後の生計維持のため、又は精神的苦痛に対する賠償として財産を給付する性質を有する場合には不動産を新たに取得したと評価されるからです。
(2)不動産を分与する側の税金について
不動産を分与する場合、分与したときの価額により不動産を譲渡したと評価されます。
この場合に、財産分与時の時価が、不動産を取得したときの価額より高くなっていた場合には、価値の上がった部分を譲渡所得として、譲渡所得税と住民税を納めなければならない可能性があります。
譲渡所得が発生しているかは、次の項目で計算方法をお話しさせていただきます。
3 不動産を財産分与した場合の譲渡所得の計算
不動産を財産分与した場合の譲渡所得の計算方法は、以下の式によって算出されます。
課税譲渡所得金額(譲渡所得)=不動産の時価-(取得費+譲渡費用)-特別控除額
【取得費】
不動産を取得するために要した費用をいい、不動産の購入代金や購入手数料、購入後に支出した設備費なども含まれます。
なお、建物については、土地と異なり、時間の経過とともに価値が下落していくため、所有期間中の減価償却費相当額を差し引きます。
【譲渡費用】
不動産を譲渡するために発生した費用のことをいいます。
【特別控除額】
居住用財産を譲渡した場合に、一定の要件を満たす場合には、3000万円の所得控除を受けることができます。
この特別控除は、配偶者などの身内への譲渡には適用になりませんが、離婚後に財産分与を行う場合には、その適用を受けることができます。
この計算方法により算出された金額が0円を下回る場合には、譲渡所得は生じていないこととなるため、税金を納める必要はありません。
4 離婚時の財産分与にかかる税金で注意すべき点
離婚時の財産分与は、清算的財産分与が基本となっています。
そのため、極端に多額の財産分与を受けると、離婚を手段として贈与税や相続税の潜脱を図ったものであり、実質的には単なる贈与だと判断され、贈与税等の税金が課税されることとなりかねません。
そのため、極端に多額の財産分与を受けるのは避けるのが無難でしょう。
5 各種控除の利用について
財産分与に関して課される税金を回避または軽減するためには、利用することができる控除の制度を最大限利用すべきです。
不動産を財産分与する場合における3000万円の特別控除は、離婚前の贈与では利用できないため、離婚後に名義変更を行う必要があります。
また、贈与税に関し、毎年110万円まで基礎控除の制度が設けられているため、これを利用することにより、贈与税の課税額を抑えることができます。
6 離婚時の不動産の財産分与を弁護士に依頼するメリット
弁護士であれば、不動産の財産分与に関する具体的なアドバイスができるのみならず、配偶者との交渉の一切を行うことができるため、配偶者との交渉による精神的なストレスを軽減させることが可能です。
また、配偶者との協議がまとまらず、裁判所の手続を利用する場合であっても、書面作成等を行い、ご依頼いただいた方の意向に沿って、離婚や財産分与の手続を進めていくことができます。
このような観点から、不動産の財産分与が関わる離婚手続に関しては、弁護士にご依頼いただくことにメリットがあるといえるでしょう。
7 不動産の財産分与でお悩みの方は当事務所へご相談ください
一度財産分与の取決めを行い、離婚してしまうと、基本的に後からやり直すことができません。
不動産の財産分与について、どのように進めていくべきか、どのような内容で取り決めをすべきかお悩みの方は、ぜひ一度、離婚問題を得意とする当事務所にご相談ください。
(弁護士・畠山賢次)









