多産DVとは

多産DVとは、夫が、妊娠・出産に関する妻の自己決定権を侵害し、妻との性交渉に及ぶ際に避妊をせず、妻に妊娠を強要したり子供を何人も出産させたりすることをいいます。
その結果として、妻に出産・育児の負担を一方的に押し付け、妻の自由な時間を奪い、極端な場合には、妻が夫の徹底的な支配下に置かれることになります。

多産DVの危険性

多産DVは女性にとってどのような危険性があるのでしょうか。

まず、女性にとって妊娠・出産は一大事であり、時として命を落とすこともありますので、出産のたびにこのようなリスクにさらされることが挙げられます。
また、多産となれば必然的に大家族となることから、妻が出産・育児に時間を取られ、自分の時間を確保できないことにもなります。
これは夫にも関係する問題ですが、子供を育てるのにお金が必要になるという経済的な問題も生じます。
そして、子供が増えてしまうことにより、離婚の際には親権や養育費の問題が大きく絡むため、どんなに過酷な状況にあっても、妻が離婚を決断しづらくなるということも挙げられます。
さらに、夫が避妊に協力しない以上、妻が自らピルの服用や不妊手術等の避妊の措置を検討することになりますが、費用がかかることはもちろんのこと、薬による副作用等、妻の身体的な負担も伴います。

このように、多産DVは妻にとって多くの危険性を伴います。

多産DVをする男性の目的とは?

多産DVをする男性は、意識的にせよ無意識的にせよ、妻を完全に支配し服従させたいと考えており、妻に妊娠・出産を繰り返させることで、結果として妻の自由な時間を奪うことを目的としていると考えられます。
女性は妊娠・出産により多大な時間的・精神的・肉体的な負担を背負い、自分が自由に使える時間を大きく制約されてしまいます。
家族を増やすという名目のもと、女性の意思決定の自由を奪い、精神的にも身体的にも女性を支配しようとする男性が存在するのです。
信じがたいことですが、妻が常に妊娠していれば、浮気の心配がないと考える男性もいるようです。

多産DVの被害には気付きにくい

そもそも家族計画をどうするのか、子供をどのタイミングで授かるのかという事柄は、夫婦で話し合って決めることであり、妻の意思を排除して夫が自分の希望を押し付けられるものではありません。
多産DVは、このように妻の人格を踏みにじる悪質な新たなDVの形態であり、ひいては性暴力であると考えることができます。

しかし、このように悪質な性暴力であるにもかかわらず、そもそも妻自身が多産DVの被害に気付いていないことがあります。
妻が自分さえ我慢すればいいと考えていたり、夫婦だから当たり前のことだという考えにとらわれてしまったりして、妊娠・出産に関する意思決定の自由を奪われているということに意識が向きづらいからです。
また、周りの第三者からすると、単純に子沢山な家庭に見えるという事情もあり、他人から指摘を受けにくいということもあります。

このように、妻が自ら多産DVの被害に気付くことは困難です。

多産DVを疑うべき兆候について

それでは、女性にどのような兆候があれば多産DVと疑うべきなのでしょうか。
妻が多産DVの被害に気付くためには、以下に挙げる様々な事情を総合的に考慮する必要があります。

➀子供が4人以上いること

子供が4人以上いる場合には、妻の意思に反して妊娠・出産を繰り返しているおそれがあるとして、多産DVを疑うべきといえます。
夫婦で話し合って子供がたくさんいる家庭を作り上げることは当然ありますので、もちろん、この事情だけでは一概に多産DVとは言えませんが、まずは子供の人数という点に着目する必要はあるでしょう。

②出産から次の妊娠までの期間が短いこと

出産から次の妊娠までの期間が短い場合には、多産DVを疑うべきと考えられます。
具体的には、次の妊娠までの期間が出産から1年未満であることが一つの指標となります。妻が出産・育児に追われている中、妊娠を繰り返すと、妻の負担はさらに大きいものとなります。
夫婦で話し合って次の子供の妊娠・出産を検討することにより、初めて妻の意思は尊重されているといえます。
このような話し合いをすることなく、短い期間で妊娠をしている場合、妻の意思を無視して妊娠が繰り返されているおそれがあります。
また、年子が連続し、4人以上の兄弟がいる場合には、特に注意が必要です。

③妊娠・出産に加え、中絶経験があること

中絶経験がある場合にも、多産DVに注意すべきです。
妊娠中絶も通常の妊娠・出産と同様、妻にとって身体的にも精神的にも負担が大きいものです。
夫がこのような妻の負担を顧みず妻に中絶させているときには、多産DVの疑いがあります。
また、中絶を決断するということは、そもそも妻の妊娠に関する自己決定権を無視した無計画な妊娠であった可能性があり、夫婦間で妊娠・出産に関する話し合いができていないことの兆候であるといえます。

④夫が避妊に協力してくれないこと

多産DVをする夫は妻が常に妊娠していてほしいと考えているので、夫が避妊に協力してくれない場合には、多産DVの兆候があるといえます。

多産DVの相談先

では、多産DVの問題を解決するためには、どのようにすればよいでしょうか。

多産DVは自覚なく苦しめられている女性がいることから、そもそも問題が表面化することが少なく、夫婦間で話し合って解決することは困難です。
多産DVをする夫の側も自覚なく妻を苦しめていることがあり、妻がこのことを指摘することで、夫が逆上し、さらなるトラブルを誘発するおそれもあります。
そこで、先ほど挙げた4つの点にご自身で注意し、多産DVと少しでも感じる方は、まずは第三者に相談して、適切な助言を得ることがよいでしょう。

具体的な相談先としては以下の機関が挙げられます。

➀かかりつけの産婦人科医

まず、かかりつけの産婦人科医がいれば、その産婦人科医に相談することをお勧めします。

かかりつけ医であれば、お互いに顔を知っているため、最も相談しやすいでしょう。
産婦人科医は、妊娠・出産に関する様々な専門的知識を持っています。
女性に寄り添って、多産DVについて女性目線の助言を受けることが期待できます。

②配偶者暴力支援センター

また、各自治体の配偶者暴力支援センターに相談するという方法もあります。

カウンセリングによる相談や、次に述べる一時保護シェルターの紹介等をしてくれます。
匿名はもちろんのこと、対面することなく電話で相談ができます。
各自治体が設置しているものなので、費用もかかりません。
青森県にもこうした支援機関が設けられています。

③一時保護シェルター

緊急性が高いときには、最終的な手段として、一時保護シェルターに駆け込むことも選択肢の一つです。

一時保護シェルターとは、DV等の暴力による被害者を一時的に保護する施設のことで、民間が設置・運営しています。
無料で最大で2週間匿ってくれるので、シェルターに居る間は、性暴力を繰り返す夫から逃れることができます。
ただし、一時保護シェルターの場合、あくまで緊急の措置なので、この2週間の間に新しい住居を見つける等、夫から逃れる環境を新しくつくる手間があります。
また、離婚という選択をしなければ、多産DVを繰り返す夫との関係は継続し、問題を根本的に解決することはできません。

弁護士にも相談できる

多産DVが原因で夫との離婚をお考えの方は、夫と離婚することで多産DVの被害から逃れることができます。

もっとも、離婚は夫と話し合って決めることが原則的ですが、繰り返し述べるように、多産DVの被害に気付いた妻が話し合いをすることは心理的なハードルが高く、難しいことです。
夫との話し合いによる交渉は、大きな精神的な負担になるでしょう。
弁護士にご依頼頂ければ、弁護士が代理人となって交渉するので、交渉の窓口はすべて弁護士となり、煩わしい交渉の負担から解放されることができます。

また、離婚をするとなれば、慰謝料、親権、養育費、財産分与等、多産DV以外の様々な法的問題に直面することもあります。
離婚によって夫による多産DVから逃れたいと考える女性は、後日に争いの火種を残さないようにするため、こうした問題も併せて解決されることをお勧めします。
専門的な知識と経験がある弁護士であれば、このような法的問題に対処することができます。

当事務所の弁護士は、これまで青森県を中心に多くの離婚事件を解決し、豊富な経験と実績を持っています。
多産DVで離婚をお考えの方は、当事務所までお気軽にご相談ください。

(弁護士・荒居憲人)

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