夫婦間に子どもがいる場合、離婚調停で、「子どもを考えるプログラム」が実施されることがあります。
今回のコラムでは、家庭裁判所の「子どもを考えるプログラム」について、ご説明させていただきます。
1 「子どもを考えるプログラム」とは?
「子どもを考えるプログラム」とは、離婚調停で、子どもがいる親を対象として、家庭裁判所が実施するプログラムのことを言います。
青森家庭裁判所では「子どもを考えるプログラム」と呼ばれていますが、他の都道府県の家庭裁判所でも同様・類似のプログラムが実施されているところが多く、「親ガイダンス」、「父母ガイダンス」など名称は様々です。
このプログラムについては公開情報が少なく、他の都道府県の家庭裁判所における実施状況の詳細は不明であるため、このコラムでは青森家庭裁判所における「子どもを考えるプログラム」について、ご説明させていただくものとします。
2 青森家庭裁判所における「子どもを考えるプログラム」の内容
青森家庭裁判所では、調停期日とは別の日に「子どもを考えるプログラム」を実施する日を決め、裁判所が作成したDVDの視聴、家庭裁判所調査官によるレクチャーなどが行われます。
所要時間は90分~120分程度のことが多いです。
費用はかかりません。
なお、「子どもを考えるプログラム」の実施は、法律で定められているものではなく、それぞれの家庭裁判所が独自に取り組んでいます。
そのため、実施している家庭裁判所によって内容は様々であり、今後、試行錯誤の中で内容が変化していくことも十分に想定されます。
このコラムでご紹介させていただくのは、2023年5月の本コラム執筆時点の実施状況であるとご理解いただければと存じます。
両親の別居・離婚により、子どもは大きなストレスを受けることとなります。
子どもが危機・困難を乗り越え、健全に成長していくためには、父母それぞれが適切に対応していく必要があります。
このような観点から、「子どもを考えるプログラム」は実施されています。
視聴するDVDは、①両親の離婚問題に直面した子どもが一般的に持ちやすい心情や心理状態、子どもに現れやすい反応や行動などを説明するもの、②面会交流を実施する場合に、子どもを送り出す親、子どもと会う親がそれぞれ気を付けるべきポイント、守るべきルールなどを説明するもの、となっております。
また、家庭裁判所調査官によるレクチャーは、子どもの年齢別に子どもに現れやすい反応と親へのアドバイス、両親の別居・離婚問題が子どもの将来に与える影響、養育費・面会交流の意義と子どもの健全な育成にとっての重要性、父母の紛争に子どもを巻き込まないための対応の仕方、などが説明されます。
家庭裁判所調査官に質問・相談したり、「子どもを考えるプログラム」に対する感想を述べたりする時間もあります。
「子どもを考えるプログラム」の概要と受講者の感想は、家庭裁判所調査官から裁判官と調停委員に報告されます。
3 「子どもを考えるプログラム」を受講するメリット
「子どもを考えるプログラム」は、法律上、受講が義務付けられているわけではなく、強制ではありません。
しかし、以下のようなメリットがありますので、基本的には受講することをお勧めいたします。
(1)子どもに関する知識を得ることができる
両親の別居・離婚により、子どもは大きなストレスを受けます。
親の対応・言動により、子どもを深く傷つけることもあります。
子どもに関する正しい知識を学び、それに沿って適切に対応することにより、子どもに与える悪影響を減らすことができます。
これにより、子どもが危機・困難を乗り越え、健全に成長していくことが可能となるのです。
「子どもを考えるプログラム」は、特に重要な知識を短時間で身に付けられるように組まれており、専門家向けではなく一般の方向けですので、分かりやすく効率的に学ぶことができます。
(2)子どもに配慮する姿勢があると評価される
離婚問題で紛争状態にある親は、子どもに対する悪影響について思いが至らなくなりがちです。
そのため、家庭裁判所は、そのような親に対する働きかけとして、手間と時間をかけて「子どもを考えるプログラム」を準備・実施し、受講を勧めています。
「子どもを考えるプログラム」を受講することにより、裁判官・家庭裁判所調査官・調停委員に対して、子どもに配慮する姿勢があるということを示すことになります。
子どもの親権が争われている場合には、子どもに対する影響について関心を持って学び、子どもに配慮しようとしているかどうかも、考慮要素となります。
「子どもを考えるプログラム」を受講しないにもかかわらず、親権、面会交流、養育費など子どもに関する権利を一生懸命主張したところで、裁判官・家庭裁判所調査官・調停委員が肯定的に評価することはないでしょう。
(3)受講後の対応・行動が高評価につながる
「子どもを考えるプログラム」では、子どもの年齢別に子どもに現れやすい反応と親へのアドバイス、父母の紛争に子どもを巻き込まないための対応の仕方などが説明されます。
「子どもを考えるプログラム」で学んだ内容を、ご自身の対応・行動に反映していくことにより、裁判官・家庭裁判所調査官・調停委員の高評価につながり、味方に付けることができるでしょう。
4 「子どもを考えるプログラム」を受講した依頼者の感想
当事務所では、依頼者が「子どもを考えるプログラム」を受講する際に、弁護士が同席させていただくことも多々あります。
以下では、「子どもを考えるプログラム」を受講した依頼者がお話しされた感想を、一部ご紹介させていただきます。
「父と母の双方が子どもを争いに巻き込んでいることを自覚しました。夫婦が不仲の場面を子どもに見せないように、子どもへの接し方を改めた方がいいと思いました。今は自分と配偶者が離婚で争っているが、いずれ普通に接することができるようになれればいいな、と考えています」
「子どもに向かって配偶者のことを否定的に言わないこと、子どもの話をしっかりと聞くことなど、子どものために父と母がお互いに協力して対応することが大切であると感じました。親権や面会交流のことで親同士が争いになっていますが、子どもの気持ちを優先していきたいと思います」
このように、「子どもを考えるプログラム」から学びを得たという肯定的な感想をお話しされる依頼者が多くいらっしゃいます。
家庭裁判所から「子どもを考えるプログラム」を提案された場合には、特段の支障がなければ、基本的には受講いただくことをお勧めいたします。
(弁護士・木村哲也)