子どもの進学や病気・怪我等により、臨時の支出や学費・医療費の負担が発生することがあります。
このような場合に、取り決めた月々の養育費・婚姻費用とは別途、相手方に負担を求めることができるかという問題があります。

養育費・婚姻費用とは

養育費とは、経済的・社会的に自立していない子ども(未成熟子)の生活費のことであり、衣食住のための費用、通常の教育費、医療費などが含まれます。
婚姻費用とは、夫婦が通常の社会生活を維持するために必要となる生活費のことであり、上記のような子どもの養育費に相当する部分と、配偶者の生活費に相当する部分とがあります。

養育費・婚姻費用の金額は、当事者双方の収入および子どもの人数・年齢を考慮し、算定されます。
その算定方法としては、標準算定方式という計算手法を用いるのが通常です。
そして、標準算定方式による計算結果に基づく養育費・婚姻費用の算定表が、裁判所のホームページで一般に公開されています。

特別費用とは

算定表(標準算定方式)による養育費・婚姻費用には、以下の費用は含まれていないと考えられています。

①子どもが私立高校や大学等に進学する場合の入学金・学用品費
②子どもの病気・怪我による高額の医療費

このように、子どもについて一時的に発生する大きな支出のことを、「特別費用」と言います。

特別費用が発生した場合には、当事者双方の話し合いにより負担割合や金額について合意できるのであれば、月々の養育費・婚姻費用とは別途、相手方に支払ってもらうことが可能です。

また、あらかじめ当事者間で特別費用の負担割合や金額を取り決めておくこともできます。
例えば、「子どもが私立高校および大学に進学する時の入学金、授業料の負担は、別途協議する」、「子どもが私立高校および大学に進学する時の入学金、授業料を1対1の割合で負担する」、「〇〇〇〇年〇〇月〇〇日(例えば、子どもの高校・大学入学時)限り、〇〇万円を支払う」などの取り決めです。
このような取り決めがある場合には、その取り決めに従って相手方に請求することが可能です。

問題となるのは、あらかじめ当事者間でそのような取り決めがなく、相手方が支払を拒否する場合の対応です。

特別費用の請求

特別費用の負担に関する当事者間の話し合いがまとまらない場合には、家庭裁判所に調停を申し立てることができます。
調停では、家庭裁判所の調停委員が仲介し、解決に向けた話し合いが行われます。
調停でも合意に至らなければ、審判の手続に移行し、特別費用の請求の可否を裁判官が判断し、審判を下します。

請求が通るかどうかについては、まず、特別費用の請求は、前述のように、①子どもが私立高校や大学等に進学する場合の入学金・学用品費、②子どもの病気・怪我による高額の医療費など、子どもについて一時的に大きな支出が発生した場合に認められる可能性があるものです。

公立の中学校・高校に進学する場合にかかる通常の学用品費や、風邪や軽傷の場合にかかる高額とまでは言えないような医療費は、算定表(標準算定方式)による月々の養育費・婚姻費用に含まれるものと考えられています。
このような月々の養育費・婚姻費用の中から支出すべき費用については、特別費用には該当せず、相手方に別途請求することはできません。

次に、①子どもが私立高校や大学等に進学する場合の入学金・学用品費については、相手方が私立高校・大学の進学を承諾していた事実の有無、当事者双方の学歴・収入・社会的地位、兄弟姉妹の就学状況(私立高校・大学に進学しているかどうか)などの事情から、相手方に負担を請求できるかどうかが判断されるものと考えられます。
②子どもの病気・怪我による高額の医療費については、通常は相手方に負担を請求できるものと考えられます。

そして、相手方に特別費用の負担を請求できる割合や金額は、特別費用の内容および金額、当事者双方の収入および生活状況などの諸事情を考慮し、算定されるものと考えられます。

特別費用に関する裁判例

特別費用の請求では、子どもが私立高校や大学等に進学する場合に争いになることが多いです。
以下では、子どもが私立高校や大学等に進学する場合の特別費用について判断した裁判例をご紹介させていただきます。

【大阪高等裁判所平成27年4月22日判決】
長女が4年生の私立大学に通っており、元妻が元夫に対して学費・交通費相当額を含む養育費の支払を求めた事案で、長女が高校に進学する際に元夫も長女が国立大学に進学することを視野に入れていたと認められるとして、長女が国立大学に進学した場合の学費標準額と通学費に相当する金額の一部を、元夫が負担するのが相当であると判断しました。
そのうえで、元妻および元夫の収入および生活状況からすると、仮に離婚しなかったとしても元夫および元妻の収入だけで長女の学費の全額を賄うのは困難であり、長女自身においても奨学金あるいはアルバイトにより学費等の一部を負担せざるを得なかったことが推認されるとして、元夫の負担割合は3分の1であると判断しました。

【東京高等裁判所平成29年11月9日判決】
子どもが私立大学の付属高校に進学し、元妻が元夫に対して学費等の負担を求めた事案で、①元夫は子どもが私立高校に進学することに反対し、私立大学の進学も了解していなかったこと、②元妻の収入はわずかであり、元夫には扶養すべき子どもが他にも多数いるという状況で、私立大学に進学した子どもに対して奨学金あるいはアルバイトにより教育費の不足額を補うように求めることは不当とは言えないことなどから、元夫には子どもの大学費用について支払義務はないと判断しました。
一方で、成人したといえども大学生であり、自立して生活できるほどの収入を得ていないことから未成熟子であること、元夫の学歴(大卒)・収入(年収900万円以上)・社会的地位(高校教師)などを考慮し、通常の養育費について大学卒業予定時期まで支払期間の延長が認められた(「子が成人に達する日まで」から「子が22歳に達した後の最初の3月まで」に延長されました)。

算定表についてはこちらもご覧下さい

●養育費・婚姻費用の算定表について
●養育費の標準算定方式による計算
●婚姻費用の標準算定方式による計算
●年金受給者の養育費・婚姻費用の計算
●養育費・婚姻費用の算定表にないタイプの場合について
●義務者の年収が2000万円以上の場合の養育費・婚姻費用
●養育費・婚姻費用の特別費用について
●養育費の支払終期(何歳まで支払うのか?大学等に進学する場合は?就学を終えても無収入・低収入の場合は?)