養育費・婚姻費用を取り決める際に、夫婦の一方または双方が年金を受給していることがあります。
養育費・婚姻費用の算定には標準算定方式に基づく算定表が用いられるのが通常ですが、算定表には給与所得者・自営業者の区分しかないため、年金受給者はどのように取り扱われるのか?という問題があります。
また、標準算定方式においても、年金受給者の場合に養育費・婚姻費用をどのように計算するのか?という問題があります。

年金も養育費・婚姻費用の算定の基礎となる

年金は、給与や事業所得と同じく生活費にあてられる定期的な収入です。
そして、養育費・婚姻費用は、お互いの収入額や子どもの有無・人数を考慮し、相応の生活水準・養育水準を確保するためのものです。
そうである以上は、年金も給与や事業所得と同様に、養育費・婚姻費用を算定する基礎となります。

年金額を給与額に換算する

年金の額について給与の額と同等の評価をすると、不均衡を生じてしまいます。
なぜなら、給与所得者は、年金受給者とは異なり就労するための必要経費を支出する必要があるため、年金受給者よりも収入を生活費にあてられる割合が小さいからです。
このような必要経費のことを「職業費」と言います。
職業費は、例えば、仕事に必要なスーツ等の購入費、仕事関係の交際費・接待費用などが考えられます。
年金は、このような職業費の支出がなくても、隔月で支給されるものであることから、年金の額について給与の額と同等の評価をするのは不適切である、と考えられるのです。

そこで、このような不均衡を是正するため、年金の額について、給与所得者の収入に占める職業費の比率で割り戻すことにより、給与の額に換算するという方式をとることが考えられます(なお、このような方式のほかにも、基礎収入割合を修正して換算する方法もあります)。
この考え方によると、給与所得者の職業費の統計値がおおむね15%であることから、「年金額÷0.85」という割り戻し計算により、給与の額に換算されます(このような方式を採用した裁判例として、東京高等裁判所令和4年3月17日決定など)。

例えば、年金の額が年間100万円の場合、これを給与の額に換算すれば、「100万円÷0.85=117万6470円」となります。
そして、この117万6470円を前提に、養育費・婚姻費用の算定表への当てはめや、標準算定方式による計算を行うこととなるのです。
なお、年金と給料の収入が両方ある場合には、換算後の年金と給与を合算します。
例えば、年間100万円の年金と年間50万円の給与がある場合には、「117万6470円+50万円=167万6470円」を前提に、養育費・婚姻費用が算出されることとなります。

障害年金はどのように取り扱われるか?

年金の中には、障がい者に対して支給される障害年金(障害基礎年金・障害厚生年金)もあり、この障害年金の取り扱いが問題とされることもあります。

この点、障害年金については、受給者の自立等のために支給されるものであるとして、養育費・婚姻費用の計算において除外するべきという考え方もあります。
しかし、障害基礎年金については子どもがいる場合に加算されることがあること(国民年金法33条の2)、障害厚生年金についても65歳未満の配偶者がいる場合に加算されること(厚生年金法50条の2)からすれば、本人以外の家族の生活費にあてられることも想定されていると言えるでしょう。
そのため、障害年金についても、養育費・婚姻費用を算定する基礎となると考えるのが通常です。
裁判例でも、障害年金について婚姻費用を算定する基礎とし、障害年金の額を0.85で割り戻した金額を前提に、婚姻費用を算定したものがあります(さいたま家庭裁判所越谷支部令和3年10月21日審判)。

ただし、障害年金の受給者の場合には、医療費などの特別な経費があることも多く、このような経費を考慮する必要があることにも注意しなければなりません。
例えば、上記の裁判例(さいたま家庭裁判所越谷支部令和3年10月21日審判)では、障害年金の額を給与の額に換算して計算したところ、婚姻費用が月額14万円程度となったものの、障害年金を受給している支払義務者が年間6万円程度の医療費の支出があることを考慮し、婚姻費用を月額13万円とする判断となっています。
また、別の裁判例では、婚姻費用の権利者が障害年金受給者であることを考慮し、換算後の収入額を前提に計算した婚姻費用(月額約8万8500円)に対して、若干の上乗せをする判断をしたもの(月額9万円)があります(福岡高等裁判所平成29年7月12日決定)。

算定表についてはこちらもご覧下さい

●養育費・婚姻費用の算定表について
●養育費の標準算定方式による計算
●婚姻費用の標準算定方式による計算
●年金受給者の養育費・婚姻費用の計算
●養育費・婚姻費用の算定表にないタイプの場合について
●義務者の年収が2000万円以上の場合の養育費・婚姻費用
●養育費・婚姻費用の特別費用について
●養育費の支払終期(何歳まで支払うのか?大学等に進学する場合は?就学を終えても無収入・低収入の場合は?)