1 はじめに

「算定表」の元となる「標準算定方式」は、義務者の年収について、給与所得者では2000万円(自営業者では1567万円)が上限となります。
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では、義務者の年収が2000万円(自営業者では1567万円)を超える場合、養育費・婚姻費用の金額はどのように計算すればよいのでしょうか?
この点、実務上は、おおむね次のように考えられています。
2 婚姻費用について
(1)年収が2000万円(自営業者では1567万円)をやや上回る場合
「算定表」「標準算定方式」の上限額である年収2000万円(自営業者では1567万円)を基準とすることが合理的であると考えられます。
【大阪高等裁判所平成17年12月19日決定】
義務者(夫:抗告人)が歯科クリニックを経営し、報酬として年額2880万円を得ており、権利者(妻:相手方)が無職で雑収入が70万円余りあるという事案において、「婚姻費用分担額の算定に当たっては、上記2000万円の限度で総収入と認めたうえ、相手方の上記収入などを前提に標準的算定方式により、抗告人の負担すべき婚姻費用額を試算することにも合理性があるというべきである」と判示。
(2)年収が2000万円(自営業者では1567万円)を大幅に超える場合
年収が億単位であるなど生活状況が標準と著しく異なる場合を除いて、以下の①または②の方法が合理的であると考えられます。
①基礎収入の割合を修正する方法
基礎収入を算出し、これを生活費指数で按分する算定方式をとりながら、基礎収入割合を修正する方法があります。
基礎収入割合を上限に該当する数値(給与所得者の場合は38%、自営業者の場合は48%)より若干低くする方法です。
【福岡高等裁判所平成26年6月30日決定:判時2250号25頁】
義務者(夫:抗告人)が医師であり、総収入が給与所得と雑収入を合わせて約6171万6840円という事案において、「年収2000万円までの基礎収入割合は概ね34ないし42パーセント(ただし高額所得者の方が割合は小さい。中略)とされているところ、年収2000万円を超える高額所得者の場合は、基礎収入割合はさらに低くなると考えられるから、抗告人の職業及び年収額等を考慮して、抗告人の基礎収入割合を27パーセントとするのが相当であり、その基礎収入額は1666万4000円(1000円未満四捨五入。以下同じ。)となる」と判示。
※当時の標準的な基礎収入割合は、34%~42%とされていました。
②基礎収入の算定に当たり、総収入から控除する各費目の額・割合を調整し、さらに貯蓄分を控除する方法
基礎収入を算出し、これを生活費指数で按分する算定方式をとりながら、標準的な基礎収入割合ではなく、事案に応じて柔軟に公租公課、職業費、特別経費の控除を認め、さらに事案により貯蓄分を控除する方法があります。
公租公課については、理論値を算出することもできますが、実額を用いることが多いです。
職業費、特別経費については、年収1500万円以上の区分の統計数値をそのまま用いる考え方と(統計数値の区分は、年収1500万円以上の区分が最大)、年収2000万円(自営業者では1567万円)を超えて250万円から500万円増加するごとに裁量で1%から1.5%程度を減じる(ただし、収入額が増加するに従って減少率を下げる)考え方があります。
貯蓄分を控除する例では、公租公課は実額、職業費および特別経費は年収1500万円以上の区分の統計数値を用いたうえで、貯蓄分を控除することが多いです。
貯蓄率(可処分所得に対する貯蓄額の割合)については、高額所得者の収入に応じた統計があるわけではないため、全収入区分の貯蓄率等を参考に推認することとなります。
【神戸家庭裁判所尼崎支部平成19年10月5日審判】
義務者(夫)は会社役員であり、給与収入1410万円に不動産所得等を含めて総収入は3900万0659円。
3900万0659円から、職業費として18.92%(当時の年収1500万円以上の区分の統計数値)の737万8925円、特別経費として16.40%(当時の年収1500万円以上の区分の統計数値)の639万6108円、所得税841万6120円、市県民税93万8600円、社会保険料83万5439円、貯蓄分として総収入から所得税・市県民税・社会保険料を控除した可処分所得に18.8%を乗じた541万6390円を控除して得た1045万4516円を基礎収入とした。
【大阪高等裁判所令和4年2月24日決定:判時2561・2562号76頁】
義務者(夫)は開業医であり、事業収入は年額7481万1253円。
まず、7481万1253円から税金の実額1904万7800円を控除すると5576万3453円。
そして、職業費が13.35%(年収1500万円以上の区分の統計数値)で998万7302円、特別経費が13.67%(年収1500万円以上の区分の統計数値)で1022万6698円とし、これらを上記5576万3453円から控除すると3554万9453円。
さらに、事業収入から税金を控除した5576万3453円の26%に当たる1449万8497円を貯蓄分と認め、これを上記3554万9453円から控除した2105万0956円を基礎収入と認定。
(3)年収が億単位であるなど生活状況が標準と著しく異なる場合
同居中の生活レベルや生活費の支出状況と、現在の権利者の生活費の支出状況等を検討し、必要分を加え、浪費部分を除くなどして相当な婚姻費用を裁量で算定する方法によることとなるでしょう。
【大阪高等裁判所平成20年5月13日決定】
義務者(夫:相手方)は開業医であり、総所得金額は5264万円。
権利者(妻:抗告人)が長男出産のために実家に戻って以来別居となり、義務者は同居中および別居となってからしばらくの間は月額50万円の生活費を交付。
裁判所は、標準算定方式に基づく婚姻費用の算定は適当ではないとし、「本件においては、抗告人及び相手方が実際に同居していた時期の収入額及び支出額、相手方が負担していた生活費の額(50万円)を一応の基準とし、これに、相手方と別居した後、平成19年7月●●日に長男●●●●が誕生し、抗告人と同居している事実、一件記録から窺える相手方との同居中の抗告人の生活実態、そこから導かれる抗告人とその子のあるべき生活レベルをも総合考慮して婚姻費用を算出するのが相当である」と判示し、婚姻費用分担額を月額40万円とした。
【東京高等裁判所平成29年12月15日決定:判タ1457号101頁】
義務者(夫:抗告人)は会社員であり、給与収入が1億5320万円(賞与が大半を占める)。
権利者(妻:相手方)は専業主婦。
裁判所は、「一般に、婚姻費用分担金の額は、いわゆる標準算定方式を基本として定めるのが相当であるが、本件では、義務者である抗告人が年収1億5000万円を超える高額所得者であるため、年収2000万円を上限とする標準算定方式を利用できない。高額所得者については、標準算定方式が予定する基礎収入割合(中略)に拘束されることなく、当事者双方の従前の生活実態もふまえ、公租公課は実額を用いたり、家計調査年報等の統計資料を用いて貯蓄率を考慮したり、特別経費等についても事案に応じてその控除を柔軟に認めるなどして基礎収入を求める標準算定方式を応用する手法も考えられる。しかし、抗告人の年収は標準算定方式の上限をはるかに上回っており、職業費、特別経費及び貯蓄率に関する標準的な割合を的確に算定できる統計資料が見当たらず、一件記録によっても、これらの実額も不明である。したがって、標準算定方式を応用する手法によって、婚姻費用分担金の額を適切に算定することは困難といわざるを得ない。そこで、本件においては、抗告人と相手方との同居時の生活水準、生活費支出状況等及び別居開始から平成27年1月(抗告人が相手方のクレジットカード利用代金の支払に限度を設けていなかったため、相手方の生活費の支出が抑制されなかったと考えられる期間)までの相手方の生活水準、生活費支出状況等を中心とする本件に現れた諸般の事情を踏まえ、家計が二つになることにより抗告人及び相手方双方の生活費の支出に重複的な支出が生ずること、婚姻費用分担金は飽くまでも生活費であって、従前の贅沢な生活をそのまま保障しようとするものではないこと等を考慮して、婚姻費用分担の額を算定することとする。なお、手続の全趣旨によれば、相手方は、当事者双方の別居解消又は離婚までの間、自宅マンションに自己の負担なく居住を継続することができると見込まれるから、以下、このことを前提として検討する」と判示。
そのうえで、裁判所は、同居時の生活水準を月額約87万円、別居後に平成27年1月までの生活水準を月額114万円と認定し、諸般の事情から相手方が従前の生活水準を維持するために必要な費用を月額105万円程度と認定。
さらに、修正要素として、①別居に伴って義務者においても同居時には必要がなかった賃貸マンション賃料、公共料金等の支出が生じること、②権利者は専業主婦であるが、およそ稼働が困難とはいい難く、しかも、自宅マンションの床面積が広大とはいえハウスキーピング(月額約12万円)を利用していること、他方、③権利者には社会保険料の負担が生じたこと、その他諸般の事情を考慮し、婚姻費用分担額を月額75万円とした。
3 養育費について
養育費とは、子どもが社会人として自立していくために必要となる費用であり、衣食住費、教育費、医療費、娯楽費等が含まれます。
養育費については、義務者が高額所得者であるからといって、その収入に応じて無制限に増加するというものではありません。
そのため、基本的には「算定表」の上限額(子ども1人の場合、14歳以下であれば月額26万円、15歳以上であれば月額30万円)を上限とすることになると考えられます。
そのうえで、特別な事情がある場合には、これを考慮することとなります。
例えば、子どもを海外留学させることが両親の地位、経歴、子どもの意思から妥当なものであり、義務者もこれに応じてしかるべきと言える場合には、海外留学費用を加味することは可能であると考えられます。
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●養育費の標準算定方式による計算
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●自営業者の養育費・婚姻費用の計算
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