養育費・婚姻費用の「新算定表」という言葉を聞いたことがあるという方もいらっしゃるかもしれません。現在の裁判所で運用されている現行の算定表に対し、平成28年11月、日本弁護士連合会が独自に策定・発表したのが新算定表です。新算定表の評価および取扱いについては、十分にご注意いただく必要があるため、このページで解説させていただきます。

現行の算定表については、こちらのページをご覧ください。
●養育費・婚姻費用の算定表について

新算定表は、現行の算定表と比較して、養育費・婚姻費用の金額が高く設定されており、子どもの年齢による区分がより細かくなっているという特徴があります。しかし、新算定表については、養育費・婚姻費用を増やすという結論ありきで策定されたなどの批判が多く、現在の裁判所での審理ではまったく通用しないのが現状です。このように、新算定表が裁判所ではまったく相手にされていないにもかかわらず、離婚の協議や調停・訴訟において、新算定表の主張が出される事例や、弁護士が依頼者に応じて現行の算定表と新算定表とを使い分けるなどの実態も散見されており、実務に混乱を招いているのが現状です。「弁護士が依頼者に応じて現行の算定表と新算定表とを使い分ける」というのは、夫から依頼を受けた場合には現行の算定表に基づく主張をする一方、妻から依頼を受けた場合には新算定表に基づく主張をするなどのダブルスタンダード(二枚舌)や、依頼者(妻)から新算定表に基づく主張をするように強く求められ、このような無理筋の要求への抑えを利かせることができず、いたずらに迎合するような姿勢のことを指しますが、いずれも適正・妥当な解決を妨げるおそれがあるものであり、問題が大きいと考えられます。

この点、新算定表を支持する一部の人たちが、「新算定表に肯定的な弁護士に相談・依頼することが大切」とか、「新算定表の活用に向けて一人一人が声を上げていくことが大切」などと主張しているインターネット上の記事を見かけることがあります。確かに、離婚・別居する夫婦がお互いに真意に基づく納得の上で新算定表を参照し、現行の算定表よりも高額の養育費・婚姻費用の合意をすることには問題がありません。しかし、養育費・婚姻費用の金額に争いのある状況において、とにかく新算定表を強固にねじ込もうという姿勢は、離婚の協議や調停・訴訟での話し合いや審理をいたずらに混乱させる結果にしかならない可能性があることも、念頭に置かなければなりません。そもそも、「新算定表」という呼称自体が、「今後は新しい算定表が適用される」、「裁判所でも通用し得る新基準である」と言わんばかりのものであり、不適切であると考えられます。インターネット上の記事では、「新算定表を積極的に活用して浸透・定着させることで、裁判所での取扱いが切り替わる」などとする記載を見かけることがありますが、新算定表が積極的に活用されて浸透・定着していく気配も、裁判所での取扱いが切り替わる様子もおよそ皆無であり、冷静さを欠いたデマのような話であると言わざるを得ません。ご相談・ご依頼される弁護士を選ぶ際には、新算定表について冷静な考えを持った弁護士を選ぶことが、女性(妻)の側にとっても、適正・妥当な解決を目指すという観点からは有益であると考えられます。

離婚の協議や調停・訴訟において、適正・妥当な解決を早期に図っていくためには、新算定表に対しては、上記のような正しい知識とスタンスをもって向き合うべきでしょう。あくまでも、現行の算定表が、現在の実務的なスタンダードです。インターネット上には、新算定表を過大評価する不適切な内容の記事も散見されますが、そのような記事に惑わされないように、どうかご注意いただきたいと思います。

なお、現行の算定表と新算定表の登場による実務的混乱の中、最高裁判所司法研修所が平成30年7月から平成31年3月までの予定で、「養育費、婚姻費用の算定に関する実証的研究」を行っています。平成31年5月中を目途に報告書がまとめられる予定ですが(ただし、発表の時期や方法は未定)、もし現行の算定表が見直されることとなれば、離婚の協議や調停・訴訟の実務に大きな影響を及ぼすこととなりますので、この研究の結果には今後注目しなければなりません。

算定表については、こちらもご覧ください

●養育費・婚姻費用の算定表について
●養育費・婚姻費用の算定表にないタイプ
●支払いをする義務者の年収が2000万円以上の場合の養育費・婚姻費用
●現行の算定表と新算定表について