1 モラハラ夫が離婚してくれない理由とは?

モラハラとは、モラルハラスメントの略称ですが、暴言や無視といった精神的な暴力によって相手の人格の尊厳を害し、心理的に支配していこうとする精神的な虐待のことをいいます。
モラハラによって妻を苦しめる夫のことを、このコラムでは「モラハラ夫」と呼称します。
一般的な傾向として、モラハラ夫は離婚に応じてくれませんが、その理由としては次の3つが考えられます。

(1)強い執着心

モラハラ夫は、妻を精神的に支配しようと言葉で責めてきます。
妻を精神的に支配し、自分の言いなりにしようとします。
精神的に支配していると強く思い込んでいるがゆえに、妻や子供に対する執着が強く、離婚に応じることは少ないです。
このような執着心は、妻や子供への愛情というよりも、自分が支配欲を実現するための対象としてみていることがほとんどです。

(2)高いプライド

また、モラハラ夫は、プライドが高いこともその特徴です。
モラハラ夫は、社会的に高い地位にいることも多く、家庭外のコミュニティでは高い評価を得ていることが多いため、高いプライドを持っています。
モラハラ夫は仕事では実績を残していることも多くあります。

モラハラ夫の妻は、家庭外では高い評価を受けているがゆえに、自分の方が間違っているのではないかと、モラハラ被害の認識がないことが多いといわれています。
プライドが高いモラハラ夫は、妻から離婚を要求されることはプライドが傷付けられ、プライドを保つために離婚に応じないことが多く見られます。

(3)思いやりの欠如

さらに、モラハラ夫は、他人を思いやる気持ちに欠けているため、妻の気持ちに寄り添うことができません。
日常的に妻を傷つける言動をしているにもかかわらず、モラハラ夫にはそのような認識を持つことができません。
離婚を求める妻の気持ちを理解できないことから、一般的な傾向としてモラハラ夫は離婚に応じません。

2 モラハラ夫が離婚に応じてくれない時の対処法

このように離婚に応じないモラハラ夫ですが、離婚を検討する妻はどのようにしてモラハラ夫と離婚できるのでしょうか。
モラハラ夫と離婚する手順について解説いたします。
簡単にまとめると、別居からの離婚交渉という流れになりますが、まずは離婚手続きの一般的な流れからご説明いたします。

(1)離婚手続きの一般的な流れについて

一般的に、離婚手続きは、協議離婚→離婚調停→離婚訴訟というステップを踏んでいくことになります。

協議離婚では、一般的に用いられている離婚の方式であり、双方が離婚に同意し、離婚届を役場に提出することによって成立する離婚となります。
モラハラ夫が素直に離婚に応じることはまれですので、この協議離婚を成立させることは難しいでしょう。

次に、離婚調停ですが、この手続きは、調停委員という裁判所の非常勤職員が当事者双方からの言い分を聞き、離婚の合意ができた場合には、離婚を成立させる手続きとなります。
協議離婚と同様に、離婚調停も離婚に同意していることが前提となりますので、モラハラ夫が離婚に応じない場合には、この離婚調停によって離婚することはできません。

そこで最終段階として、離婚訴訟を用いることになりますが、これは、裁判官が双方の主張と証拠に基づいて、一刀両断的に離婚を認めるかどうかの判断を行い、離婚を認める場合には、当事者の意向に関わらず、離婚を成立させる手続きとなります。
モラハラ夫が徹底的に離婚を争ってくる場合、この離婚訴訟において裁判官に離婚を認めてもらうことを目標とします。

(2)証拠の収集について

モラハラの事実関係を争ってきた場合、証拠を準備しておく必要があります。
別居後は基本的に顔を合わせることはないため、出来るだけ別居前に証拠を集めておくことがおすすめです。

証拠として利用できるものは、モラハラを受けたときの録音や、日記、モラハラ夫からのメッセージ履歴等、モラハラを受けた記録があれば何でも使うことができます。
このような証拠は別居前でなければ基本的には収集することができませんので、別居前に可能な範囲で対応いただくことになります。
もっとも、例えば録音がモラハラ夫に知られ、さらに強いモラハラ被害を受けてしまう場合もありますので、無理のない範囲で証拠収集していただくのがよいでしょう。

(3)別居について

次に、離婚に向けて準備を進めていくため、別居をしていただくことになります。
離婚手続きやその交渉自体は同居した状況でも行うことは可能です。

しかし、同居している場合、モラハラ夫と日常的に接触するため、モラハラが継続されることは容易に予想されます。
そのような状況下で離婚条件について落ち着いて交渉をすることは望めない上に、そもそもモラハラ夫から離婚の同意を取り付けることが困難です。
また、別居後は、後述する婚姻費用の請求を行うことができますので、生活費についても婚姻費用によって賄うことができます。
そのため、まずは別居から進めていくことになります。

別居後、婚姻費用を受け取りながら、前述しました離婚手続きを落ち着いて進めていくことがオーソドックスな流れとなります。

(4)婚姻費用の請求について

別居後、モラハラ夫に対し婚姻費用の請求を行っていくことになります。
夫婦は、別居している場合であっても、互いに扶養をする義務があります。
この扶養義務は、生活保持義務というものであって、一つのパンであっても分け合うと言われるように、自分と同じ水準の生活を保障する義務となります。
配偶者には、それぞれの収入に応じて、自分と同じレベルの生活を保障する義務がある、ということになります。

モラハラ夫との離婚を決意した妻は、別居し、モラハラ夫に対しこの婚姻費用の請求を行うことになります。
婚姻費用の請求は、内容証明郵便によって確定的に請求の意思を表示することもできますが、より一般的な手法としては、婚姻費用分担調停の申立てを行うことになります。
婚姻費用は調停を申し立てた月から発生するとされるのが実務的な扱いとなりますので、別居後、できるだけ速やかに調停を申し立てることが肝要です。

婚姻費用は、毎月、一定の金額が発生することになります。
そのため、別居後、毎月決められた金額を安定的に受け取ることを目標にします。
モラハラ夫は、調停で決められた婚姻費用を支払わない場合がありますが、その場合には、給与の差押えといった強制執行を検討することになります。
別居後、このようにして婚姻費用の受領によって生活を安定させながら、離婚交渉を進めていくことになります。

(5)離婚訴訟における対応について

離婚訴訟では、双方が提出する主張と証拠に基づいて、裁判官が離婚を認めるかどうか判断をします。
離婚原因の存在が証明できれば離婚が認められ、証明できなければ離婚は認められないことになります。

代表的な離婚原因としては、不貞行為や暴力、長期間の別居が挙げられます。
近年では、別居期間が長いという事情と相まって、モラハラも離婚原因として考えられるようになっています。

そこでモラハラの事実があったことを証明する必要がありますが、証拠がなければ証明することはできませんので、モラハラを明らかにする証拠が重要となります。
具体的には、モラハラを記録した録音や日記、モラハラを目撃した第三者の証言が代表的な証拠となります。
離婚訴訟ではこのような証拠を提出して、モラハラによる離婚原因があることを裁判官に納得させる必要があります。

3 モラハラ夫との離婚を検討する際の注意点

モラハラ夫は精神的な虐待を日常的に行っています。
そのため、妻が離婚を切り出すときにも、モラハラを行ってくることが予想されます。
「一人で生活できると思っているのか、誰の給料で飯を食っているのか」といった暴言を吐き、妻を翻意させようとしてきます。

また、反対に、急に優しくなるモラハラ夫もいますので注意が必要です。
「これまでのことは謝罪するから、やり直す機会が欲しい」といったものや、「とにかく離婚だけはしたくないから、改善点があったら教えて欲しい」等と、強く要望してくることがあります。
このようなモラハラ夫は、モラハラを常習的に行う人間の典型的な手法です。
反省の態度は一時的なものに過ぎず、妻の離婚の思いが弱くなったと感じると、再びモラハラを行うようになります。
心から妻の心情を理解しようとするならば、妻が離婚を決意する前に、自らの言動を振り返り改善しようとするはずです。
モラハラ夫との離婚を決意した場合、モラハラ夫の一過性の態度に振り回されることなく、毅然とした態度で離婚を求めていくことが大切です。

このようなモラハラ夫からの対応が予想されるのは、同居を継続している状況で離婚の意思を伝えてしまうことが原因です。
別居し、モラハラ夫との連絡手段を一切断つことにより、離婚の決意が揺らぐことはないでしょう。
そのため、モラハラ夫との離婚を検討する際は、別居を先行させてから離婚意思を伝えることが重要です。

4 モラハラ夫との離婚のお悩みを弁護士に依頼するメリット

(1)相手方との連絡を全て弁護士に任せられること

弁護士にご依頼いただく場合、交渉の窓口はその弁護士となります。
本人に連絡を取ることは禁止されますので、モラハラ夫からの連絡を受ける必要はありません。
連絡先をすべて削除ないしブロックしていただき、執拗な連絡から解放されることができます。
相手方からの連絡を受けない、というだけでもストレスから解放されることになると思いますので、大きなメリットになります。

(2)交渉や裁判手続きを全て弁護士に任せられること

このようにして弁護士を立てることにより、モラハラ夫からの直接連絡や接触を遮断し、離婚交渉を行っていくことになります。
この離婚手続きは、ご依頼いただいた弁護士が全て対応することになります。

モラハラ夫との離婚を成立させるためには、一般的には、離婚調停の申立てを速やかに行うことになります。
モラハラ夫は、弁護士が介入してもまともに話し合いをすることができず、協議離婚にこだわると離婚が遅れる可能性が高いと思われます。
もちろん弁護士の方針や得意とする手続きが異なるため一概にはいえないことですが、離婚調停で調停委員に間に入ってもらい、適切な離婚条件を主張していくことになるのが通常です。
そこで速やかに離婚調停の申立てを行い、ご依頼いただいた弁護士が離婚調停に同席し、必要に応じて調停委員に対し発言していきます。
離婚調停では当事者の方に発言いただいた方がスムーズな場合もありますので、弁護士がどのような形でサポートするかは、ケースバイケースで弁護士が判断することができます。

モラハラ夫は、離婚調停に至っても離婚に応じることがない場合がありますので、そのときは離婚訴訟に進むことになります。
離婚訴訟では、法律と証拠に基づいた専門的な訴訟活動が必要となりますので、弁護士が対応することになります。
この離婚訴訟においても、裁判所に提出する書面は弁護士が作成し、依頼者にご確認いただいてから、裁判所に提出することになります。
どのような主張や証拠が必要なのかどうかは、弁護士が判断し、依頼者に助言や証拠収集の依頼をすることになります。
必要に応じて、調査嘱託といった、裁判所を用いた証拠収集方法も検討することになりますが、こちらも弁護士が申立て等の対応を行うことになります。
どのような証拠があるのか、証拠として提出する必要性があるのかどうか、このような判断には専門的な知識と経験が必要ですが、弁護士であれば適切に判断することができます。

このように、モラハラ夫との離婚を弁護士にご依頼いただく場合、離婚までの法律的な問題をフルコースでお任せいただくことができます。

5 離婚に関するお悩みは当事務所にご相談ください

当事務所の弁護士は、離婚について豊富な知識と経験があります。
離婚についてお困りの方は、ぜひ一度、当事務所にご相談下さい。

ご依頼いただかない場合であっても、ご自身で対応される場合の適切な進め方について、ご相談者様の状況に合った方法をご案内することができます。
なお、ご相談いただくタイミングは、別居前、別居後のいずれであっても問題ございません。
状況に応じて弁護士が適切にアドバイスさせていただきます。

どうぞお気軽にお問い合わせいただければと思います。

(弁護士・荒居憲人)

ご相談のご予約

当事務所の弁護士が書いたコラムです。ぜひご覧ください。

No 年月日 コラム
42 R7.9.12 モラハラ夫が離婚に応じてくれないときの対処法について弁護士が解説(弁護士・荒居憲人)
41 R7.8.5 離婚に向けて事前に準備すべきこと5選を弁護士が解説(弁護士・畠山賢次)
40 R7.6.20 離婚における財産分与を弁護士に相談すべき理由について解説(弁護士・下山慧)
39 R7.6.9 共同親権とは?開始時期やメリット・デメリットについて弁護士が解説(弁護士・神琢磨)
38 R7.5.13 モラハラによる離婚は弁護士に相談すべき?弁護士が解説(弁護士・畠山賢次)
37 R6.9.30 モラハラ夫との離婚後のトラブルを防ぐためのポイント(弁護士・神琢磨)
36 R6.9.4 離婚する専業主婦の年金分割について(弁護士・下山慧)
35 R6.4.1 住宅を任意売却する場合のタイミングは?(離婚前?離婚後?)(弁護士・下山慧)
34 R6.2.21 養育費が支払われなくなったときの対応(弁護士・畠山賢次)
33 R5.8.7 モラハラの冤罪・偽装・でっち上げへの対処法(弁護士・木村哲也)
32 R5.6.27 「子どもを考えるプログラム」について(弁護士・木村哲也)
31 R5.4.11 モラハラの被害に遭われた方へ(弁護士・木村哲也)
30 R4.12.6 配偶者からの誹謗中傷への対処(弁護士・畠山賢次)
29 R4.10.18 離婚における公正証書作成のポイントを弁護士が解説(弁護士・山口龍介)
28 R4.10.6 別居中に配偶者や弁護士から連絡が来た場合の対処法(弁護士・荒居憲人)
27 R4.8.16 DV冤罪・偽装DV・でっち上げDVへの対応方法と予防策(弁護士・木村哲也)
26 R4.8.10 「妻は夫に無断で子どもを連れて黙って家を出れば、子どもの親権を取ることができる」は本当なのか?(弁護士・木村哲也)
25 R4.7.1 多産DVとは?妻ができる解決方法と相談窓口について(弁護士・荒居憲人)
24 R4.2.17 青森市に「青森シティ法律事務所」を開設しました。(弁護士・木村哲也)
23 R3.1.21 親権者変更が認められる類型と手続(弁護士・木村哲也)
22 R3.1.18 離婚・別居時の夫婦間の子どもの奪い合いトラブルの解決手続(弁護士・木村哲也)
21 R2.5.11 LINEでのビデオ通話による法律相談対応を開始しました。(弁護士・木村哲也)
20 R2.3.5 婚姻費用分担の審判を家庭裁判所に申し立て、その審理中に離婚が成立した場合であっても、婚姻費用分担の請求権は消滅しないとの最高裁判所の判断が示されました。(弁護士・畠山賢次)
19 R2.1.21 養育費・婚姻費用の算定表が改訂されました。(弁護士・畠山賢次)
18 H31.4.23 バックアッププランのご案内(弁護士・木村哲也)
17 H30.9.18 DVの被害に遭われた方へ(弁護士・木村哲也)
16 H29.10.31 不倫慰謝料問題に特化した専門サイトを開設しました。(弁護士・木村哲也)
15 H29.10.11 小さいお子様をお連れの方も、安心して当事務所をご利用ください。(キッズスペースのご案内)(弁護士・木村哲也)
14 H29.8.4 面会交流への寛容性は、親権者判断にどの程度影響してくるのか?親権が争われた裁判で、父親が逆転敗訴した事件から見える親権者判断の現状。(弁護士・山口龍介)
13 H29.6.12 離婚調停を弁護士に依頼するメリット②(弁護士・山口龍介)
12 H29.6.7 離婚調停を弁護士に依頼するメリット①(弁護士・山口龍介)
11 H28.9.28 長期間別居している方の離婚について(弁護士・木村哲也)
10 H28.1.6 相談料は初回無料です。お気軽にご相談ください。(弁護士・木村哲也)
9 H27.6.1 産後クライシスについて(弁護士・山口龍介)
8 H27.5.20 不倫・浮気のケースにおける秘密録音のポイント(弁護士・木村哲也)
7 H27.5.13 録音した音声は訴訟(裁判)で証拠として使えるか?(弁護士・木村哲也)
6 H27.4.1 子どもとの面会交流を諦めていませんか?(弁護士・木村哲也)
5 H27.4.1 不倫・浮気の証拠となるメールを発見したときの対処法(弁護士・木村哲也)
4 H27.3.10 婚姻費用の分担請求をご存知ですか?(弁護士・山口龍介)
3 H27.3.10 裁判官は実際のところどうやって親権を決めるの?(弁護士・山口龍介)
2 H27.3.10 親権者と監護権者を分けるという考え方は基本的に誤りです。(弁護士・木村哲也)
1 H27.3.10 親権者を決める際は慎重に(弁護士・木村哲也)