離婚の成立に至る前に、別居状態となる夫婦も少なくありません。
そして、夫婦別居状態が続くと、夫婦の財産に増加・減少が起こり得ます。
また、不動産や自動車、株などの評価額が変動することも考えられます。
そのため、どの時点の財産・評価額を基準に財産分与を行うかが問題となります。
財産分与では、「範囲」と「評価」の2つの基準時が問題となりますので、以下でそれぞれについてご説明させていただきます。

財産分与の範囲の基準時

結婚後、どの時点までに形成された財産を財産分与の対象とするのでしょうか?
これが財産分与の「範囲」の基準時の問題です。

財産分与とは、夫婦が結婚期間中に協力して築いた財産を、離婚時に分け合う制度です。
そのため、財産分与の範囲の基準時については、夫婦の協力関係がどの時点まで続いたかという観点から判断することとなります。
そして、夫婦が別居状態となった場合には、別居の時点で夫婦の財産形成に対する協力関係が一応終了したものと考えられます。
そこで、財産分与の範囲の基準時は、別居時であると一般的に考えられています。

このように、一般的に財産分与の範囲の基準時が別居時であることからすれば、別居後に夫婦の財産に増加・減少があっても、基本的には考慮されません。
そして、あくまでも別居時に存在した夫婦の財産を基準に財産分与を行う、というのが基本となります。

ただし、別居後も夫婦の財産形成に対する協力関係が継続していたと認められる特段の事情がある場合には、別居後に築いた財産も財産分与の対象となる可能性があります。
例えば、別居後も配偶者が給料を管理していた場合や、別居後も夫婦が協力して事業を運営していた場合などが、これに該当します。

以上のとおり、財産分与の範囲の基準時は別居時を一応の基準とし、個別具体的な事情を考慮して別居後の財産の変動も考慮する、という取り扱いがとられています。

なお、別居婚(結婚当初から別居を前提とした夫婦関係。週末婚、通い婚とも呼ばれます)の場合には、夫婦の協力関係のもとに形成された財産が存在せず、財産分与が発生しないということもあり得るでしょう。
ただし、別居婚の場合であっても、夫婦で協力して築いた財産があるのであれば、財産分与の対象となり得ます。
また、離婚の前提となる最終的な別居となる前にも別居期間があり、その別居期間中に夫婦の協力関係が途絶えていたと言える場合には、その間に形成された財産は財産分与の対象から除外されると考えられます。
ただし、このように途中の別居期間があったとしても、別居期間が数日から数か月程度と短い場合や、単身赴任、留学、入院、里帰り出産であり、夫婦の財産管理の実態等から協力関係が失われたと言えない場合には、別居期間中に形成された財産も財産分与の対象となるでしょう(もっとも、別居期間中、夫婦それぞれの財産形成に対する貢献度に顕著な差が生じたと言い得るような事情があれば、基本は2分の1ずつとされる財産分与の割合が修正される可能性があります)。

単身赴任をきっかけに別居状態となり、同居に戻らないまま離婚の話になる例も見られます。
このようなケースでは、離婚を前提とする別居と同視できる事情が発生し、夫婦の財産形成に関する協力関係が失われたと言い得る時点を、財産分与の基準時とするべきでしょう。
具体的には、夫婦の一方が離婚を切り出した時点、夫婦双方が離婚に合意した時点などが考えられます。

財産分与の評価の基準時

財産分与の対象となる財産について、どの時点の評価額を基準としての財産分与を考えるのでしょうか?
これが財産分与の「評価」の基準時の問題です。

財産分与の対象に不動産や自動車、株などがある場合、これらは評価する時期により価額が変動し得ることから、財産分与の評価の基準時が問題となります。

この点、財産の時価額の変動については、夫婦の協力関係とは無関係であるため、離婚時の評価額を基準とするのが公平であると考えられています。
そのため、財産分与の評価の基準時は、離婚時であるとされています。

具体的な財産における基準時の考え方

以下では、財産分与の範囲と評価の基準時の考え方について、具体的な財産を挙げながら、ご説明させていただきます。

預貯金

預貯金は、別居時の口座残高が財産分与の対象となります。
ただし、独身時代から保有している預貯金や、親から相続・贈与を受けた預貯金は、夫婦の協力関係とは無関係の「特有財産」として、財産分与の対象外です。
もっとも、特有財産にあたる預貯金がある場合であっても、結婚後に口座間の資金移動や残高の増減があるなど、結婚後に得た収入と混然一体となっている場合には、全額を財産分与の対象外とすることはできない可能性があります。

不動産・自動車

別居時に保有している不動産・自動車があれば、財産分与の対象となります。
しかし、独身時代から保有している不動産・自動車や、親から相続・贈与を受けた不動産・自動車は、財産分与の対象外です。
ただし、独身時代にローンを組んで購入した不動産・自動車について、結婚後にローンの返済をした場合には、財産分与の対象となります(この場合、独身時代に支払った頭金やローンに対応する特有財産部分を加味して、財産分与の計算を行います)。
そして、離婚時の評価額を基準として財産分与の計算を行います。
評価の方法は、複数の業者に査定を依頼し、中間的な数値を用いる例も多いです。
不動産の場合には、固定資産評価額を用いる例も多く見られます。
不動産鑑定士による鑑定を利用することも考えられますが、高額の鑑定費用がかかることには注意が必要です。

保険

別居時に掛け捨てでない保険があれば、別居の時点で解約したと仮定した場合の解約返戻金相当額が財産分与の対象となります。
ただし、独身時代から加入している保険であれば、独身時代の加入期間に相当する部分を控除して計算する必要があります。
また、別居後に支払った保険料に相当する解約返戻金の部分も、財産分与の対象外です。
これらの期間の保険料の支払に相当する部分は、夫婦の協力関係とは無関係であるためです。
別居後に加入した保険も、財産分与の対象外です。

退職金

別居前にすでに支払われた退職金がある場合には、別居時に残存する金額が財産分与の対象となります。
別居時にはまだ勤続中で受け取っていない退職金については、仮に別居となった時点で退職した場合に支給される退職金の見込額が財産分与の対象となります。
勤続年数のうち結婚前や別居後の期間がある場合、その期間に相当する退職金の部分は財産分与の対象外とされます。
この期間の勤続に相当する部分は、夫婦の協力関係とは無関係であるためです。

別居時に保有している株があれば、財産分与の対象となります。
ただし、独身時代から保有している株や、別居後に取得した株は、財産分与の対象外となるのが原則です。
そして、離婚時の株価を基準として財産分与の計算を行います。

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●財産分与について
●財産分与の対象となる財産
●財産分与の割合
●財産分与の基準時
●財産分与と住宅(家)
●借金がある場合の財産分与

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