性的不能とは、性機能の障害により、性交渉をすることが困難な状態のことを意味します。
男性の性機能障害では、勃起障害・勃起不全(ED)、性欲低下、性嫌悪症、射精障害などがあります。
女性の性機能障害では、性交渉時の痛み(性器骨盤痛・挿入障害)、腟の筋肉の痛みを伴う収縮(けいれん)、性的関心・興奮障害、オルガズムに伴って感じる苦痛(女性オルガズム障害)などがあります。
性的不能が原因で夫婦間の性交渉がなくなることがありますが、その結果として、気持ちのすれ違いが生じるなどして夫婦関係が悪化し、離婚を考える方も少なくありません。

このページでは、男性の性的不能の原因として最も多いEDを中心として、
1 性的不能(ED)とは
2 性的不能(ED)を理由に離婚できるか?
3 性的不能(ED)を理由に慰謝料を請求できるか?
4 性的不能(ED)による離婚のポイント
ということについてお話しさせていただきます。

1 性的不能(ED)とは

EDとは、英語の「Erectile Dysfunction」の略で、日本語では「勃起障害」「勃起不全」と訳されます。
これは、「満足な性行為を行うのに十分な勃起が得られないか、または(and/or)維持できない状態が持続または(or)再発すること」と定義されており、まったく勃起が起こらない場合だけでなく、硬さや維持が不十分であることも含まれています。

EDの症状は、
・性欲や興奮はあっても、勃起しない
・性交渉の経験回数が少なく、不慣れなため緊張して勃起しない
・最初は勃起するけれど、持続ができない(性交渉の途中で萎えてしまう)
・勃起はしているけれども、明らかに堅さが不十分
など、人によってさまざまですが、性交渉の途中で萎えてしまうことが、EDの一番多い症状と言われています。
そして、その結果、性交渉に自信が持てず、夫婦の性生活に消極的になってしまう人も多く見られます。

また、EDの原因については、主なものとして、以下の2つがあります。

・器質性ED
神経の障害や血管の動脈硬化の進行などが原因となって起きてしまうEDのこと。
加齢と共に血管は老化してくるため、弾力性が徐々に低下してくる(動脈硬化)、40代以降の男性に多いパターン。
生活習慣病も血管に負担をかけるため、それが原因で動脈硬化が進行してしまうことも考えられる(喫煙や過度の飲酒も同様)。

・心因性ED
仕事や家庭などの日常生活におけるストレスや、性交がうまくいかなかったことのトラウマなどの精神的ストレスが引き金となるEDのことで、「性欲が出ない」、「性交渉が面倒」なども、この心因性EDに分類される。
性交渉自体の経験が浅い若い20代の男性が緊張からなる場合や、仕事で忙しくまた子作り世代でもある30代の男性に多いパターン。

2 性的不能(ED)を理由に離婚できるか?

様々な年代で性的不能(ED)となる可能性がありますが、配偶者が性的不能(ED)になり、性生活が無くなってしまうことで、離婚を考える場合もあるでしょう。
そこで次に、性的不能(ED)を理由に離婚できるか?について解説します。

民法770条1項には、以下の離婚原因が定められています(法律上の離婚原因)。
①不貞行為。
②悪意の遺棄(正当な理由なく働かない、生活費を渡さない、同居を拒否するなど)。
③3年以上の生死不明。
④回復の見込みがない強度の精神病。
⑤その他婚姻を継続しがたい重大な事由(長期間の別居、暴力(DV)、犯罪による長期懲役などにより、結婚生活・夫婦関係が破綻した場合)。

性的不能(ED)については、⑤の婚姻を継続し難い重大な事由にあたるかということが問題となります。
結論から言いますと、配偶者が性的不能(ED)であるというだけでは、婚姻を継続しがたい重大な事由(夫婦関係の破綻)、すなわち法律上の離婚原因があると言うのは難しいと考えられます。
結婚生活・夫婦関係において、性生活は重要な要素ではありますが、必須の要素とまでは言えないからです。
過去の裁判例では、性的不能(ED)を理由に婚姻を継続しがたい重大な事由があるとされた例もありますが、これは、結婚にあたって配偶者が性的不能であることを全く知らず、その後長期間に渡って性交渉が一切なかったというケースで、例外的であると言えます。

もっとも、法律上の離婚原因がなくても、夫婦がお互いに離婚に合意すれば、離婚することが可能です。
そこで、性的不能(ED)を理由に離婚をしたい場合には、離婚協議や離婚調停において離婚に向けた説得を粘り強く行っていくことや、離婚訴訟を戦略的に進めていくことで、合意による離婚を成立させることに注力していくことが考えられます。

離婚協議や離婚調停では、配偶者が離婚を拒否している場合には、離婚の同意を得られるように粘り強く説得していくことが必要となります。
性的不能(ED)を理由に離婚をしたい場合では、結婚生活・夫婦関係においては夫婦間の性交渉も重要な一要素であり、性生活が一切ない中で結婚生活・夫婦関係を継続していくことは困難であることを説得的に伝えるとともに、離婚しか選択肢はないという強い意思を示し続けることにより、夫婦として関係を修復することが不可能であると思わせることが考えられます。
また、金銭面の離婚条件で譲歩することにより、配偶者が離婚に同意することを促す方法も考えられます。

離婚訴訟では、法律上の離婚原因があることを証明できなければ、離婚を認める判決を得ることはできません。
性的不能(ED)はそれだけでは法律上の離婚原因があると言うのは難しいですが、例えば、性的不能(ED)を原因として別居して、それが長期間になっている場合には(個々の事案によりますが、おおむね4年~5年以上)、法律上の離婚原因があるとされる可能性は高まります。
また、性交渉が全くできず医学的な治療によっても回復が不可能、医学的な治療をすれば回復するかもしれないのに何もしてくれない、話し合う機会を設けようとしても拒否する、会話も無くなり家庭内別居状態となっている、などの要素が加わることで、法律上の離婚原因があるとする方向へ近づいてくることも考えられます。

法律上の離婚原因がなくても離婚を進める方法については、こちらもご参照ください。
●法律上の離婚原因がなくても離婚を進める方法

3 性的不能(ED)を理由に慰謝料を請求できるか?

離婚の際に夫婦間で問題となる離婚慰謝料は、違法な方法で夫婦関係を破綻させるという不法行為によって、精神的な苦痛を負わせたことで発生します。
裁判例でも、性生活は結婚生活・夫婦関係の重要な要素であることが認められており、性生活が一切ないこと(いわゆるセックスレス)を理由に、慰謝料が発生することはあります。
もっとも、セックスレスで慰謝料が発生するのは、夫婦のどちらかが一方的に拒絶しているケースで、年齢が若くて性生活があって当然といえるような場合に限られています(過去の裁判例では、配偶者が結婚当初から別居まで、異性に触れられると気持ちが悪いと言って性交渉を一切拒否したことで、慰謝料150万円が認められたケースがあります)。

そうすると、性的不能(ED)の場合は、本人を責めるべき事情ではなく、性的不能(ED)が原因で性生活が維持できなくて夫婦関係が破綻したとしても、不法行為は成立しないと考えられます。
したがって、性的不能(ED)であるということを理由に慰謝料を請求することは、原則として難しいと考えられます。

ただし、配偶者が性的不能(ED)であることを隠したまま結婚した場合には、慰謝料請求が可能であると考えられます。

4 性的不能(ED)による離婚のポイント

最後に、性的不能(ED)による離婚のポイントを3つ挙げます。

(1) 性的不能(ED)にきちんと向き合う

何より、夫婦で性的不能(ED)に向き合い、結婚生活・夫婦関係の維持に向けて、正面から話し合って、二人で解決に向けて行動していくことが大切ではないでしょうか。
専門医を受診することで治療方法が見つかり、性生活の問題が解決する可能性もあります。
また、性生活については解決策がなくても、即離婚ではなく、夫婦で話し合って、それ以外のたくさんの大切なことに思い至り、結婚生活・夫婦関係を維持していくことも考えられます。

他方で、性的不能(ED)にきちんと向き合うという行動は、その後に離婚を求めていく場合においても、重要な要素となってきます。
先ほど述べたように、配偶者が性的不能(ED)であるというだけでは法律上の離婚原因があると言うのは難しいと考えられますが、医学的な治療によっても回復が不可能、医学的な治療をすれば回復するかもしれないのに何もしてくれない、話し合う機会を設けようとしても拒否する、などの要素が加わることで、法律上の離婚原因があるとする方向へ近づいてくることも考えられるからです。
離婚を請求する側が結婚生活・夫婦関係を維持していくための努力をしたにもかかわらず、請求を受ける側が真面目に取り合わなかったという事実は、婚姻を継続しがたい重大な事由(夫婦関係の破綻)を基礎づける事情となります。
逆に、修復に向けた努力を何もせずに、性的不能(ED)であるというだけで離婚を請求しても、やはり法律上の離婚原因があると言うのは難しいと考えられます。

(2)性的不能(ED)が原因で夫婦関係が破綻したことを記録する

離婚を視野に入れるのであれば、繰り返しになりますが、性的不能(ED)だけでは法律上の離婚原因としては弱いことから、性的不能(ED)をきっかけとして、さらに、会話が無くなり家庭内別居状態となっている、一緒に出掛けることが無くなったなど、結婚生活・夫婦関係が修復できない状態(破綻の状態)になったということを示す必要があります。
ここでは、証拠としては、具体的な出来事を日記として残しておくことが考えられます。

(3)不倫・浮気に注意する

いくら性的不能に不満があっても、結婚生活・夫婦関係が続いている以上は、配偶者以外の人と性交渉をしてしまうと不貞行為となります。
そして、不貞行為をしてしまうと、有責配偶者と判断され、原則として、裁判での離婚請求が認められなくなります。
したがって、配偶者の性的不能(ED)が原因で性生活がないことついて大きな不満があったとしても、配偶者以外の人と性交渉や交際をすることは、離婚の成立の妨げとなることは理解しておくべきでしょう。

弁護士にご相談ください

以上のように、性的不能(ED)による離婚には、特有の複雑な問題があります。
性的不能(ED)による離婚についてお悩みの方がいらっしゃいましたら、離婚問題に詳しい当事務所の弁護士にご相談ください。