
財産分与の基準時は、夫婦間の財産形成に対する協力関係が終了した時点であると考えられています。
実務上は、別居をせずに離婚をした場合、離婚成立時が財産分与の基準時とされることが多いと考えられます。
ただし、同居が継続していても、財産形成に対する協力関係が離婚よりも前に終了したことが証明されれば、その時点をもって財産分与の基準時とすることも可能であると考えられます。
しかし、同居が継続している場合、家事や生活費の分担が行われていることが多く、協力関係の終了を裏付ける客観的証拠の提出も難しいことから、離婚よりも前の時点を財産分与の基準時とすることは容易ではないと考えられます。
この点、家庭内別居の開始時点を財産分与の基準時とする主張もあり得るところです。
しかし、漠然と家庭内別居の事実を主張するだけではなく、財産形成に対する協力関係の終了に関する具体的事実の主張・立証が必要であると考えられます。
同居が継続していても、離婚調停が申し立てられているような場合には、調停申立時を財産分与の基準時とすることは比較的認められやすいと考えられますが、ケースバイケースであると思われます。
離婚訴訟の判決が出るまで夫婦が同居を継続した事案で、離婚よりも前の時点を財産分与の基準時とする判断をした水戸家庭裁判所平成28年3月判決【書籍「2分の1ルールだけでは解決できない財産分与額算定・処理事例集」28頁】がありますので、ご紹介いたします。
【水戸家庭裁判所平成28年3月判決の概要】
①原告は60代前半で無職の夫。妻は60代前半で会社員の妻。
②原告と被告は昭和53年に結婚。原告は転勤による単身赴任を繰り返した。
③原告は平成19年に役員に就任。従業員としては退職となり、退職金約2500万円を受領。原告は、退職金のうち1000万円を、無断で払い戻さないように被告に言ったうえで、被告が管理する原告名義の預金口座に送金。原告は平成21年に最後の単身赴任を終え、平成22年以降は被告と同居。原告は平成24年に定年退職し、現在は無職。
④同居後、原告と被告は生活リズムの違いなどから、間もなく寝室を別にし、食事や洗濯を別々に行うようになった。原告と被告の会話は減り、連絡事項をメモに書くなどして伝えるようになった。
⑤平成23年5月頃、原告は被告に預けていた退職金1000万円を返すよう求めたが、被告は応じなかった。原告が預金口座を調べたところ、残高は5万円程度しかなかった。この頃から、原告と被告は口論するほかに、互いを非難するメモを取り交わすようになった。同年10月から11月にかけて、被告は原告の預金口座に400万円を入金して退職金の一部を返還したが、それ以上の支払を拒否。
⑥原告は夫婦間で話し合って解決するのは難しいと考え、平成25年7月に円満調停を申し立てたが、平成26年1月に新たに離婚調停を申し立て、同年2月に円満調停を取り下げた。離婚調停は同年3月に不成立となり、原告は同年6月に離婚および財産分与を求めて離婚訴訟を提起した。
⑦被告は、円満調停が申し立てられた平成25年7月以降、預金、証券、保険などの資産を立て続けに現金化。
⑧原告は円満調停を申し立てた平成25年7月が財産分与の基準時になると主張し、被告は同居が継続しているため離婚時が財産分与の基準時となると主張。
⑨裁判所は、円満調停が申し立てられた平成25年7月を財産分与の基準時と判断。この時点で同居はしているものの、夫婦としての協力関係は失われていると認定。また、被告が平成25年7月以降に金融資産の大部分を現金化して捕捉困難な状態としたことを指摘し、同日時点で存在した夫婦共有財産を財産分与の対象とするのが相当であると判示。










