離婚において特に対応に注意を要する事案の一つに、境界性パーソナリティ障害の配偶者との離婚があります。
このページでは、境界性パーソナリティ障害の特徴や離婚に向けた対応について、ご説明させていただきます。

境界性パーソナリティ障害とは

境界性パーソナリティ障害とは、感情や行動、対人関係が不安定なために、社会生活に支障が生じる障害のことを言います。
境界性パーソナリティ障害には、次のような症状や特徴があります。

人に見捨てられることを強く恐れ、必死に努力する。
人間関係が不安定で変動が激しく、相手を理想化したかと思えば、一転低評価するという両極端を揺れ動く。
自己像や自己感覚が不安定で頻繁に変化する。
自分に害を及ぼし得る衝動的な行動に依存する(例えば、安全ではない性行為、過食、浪費、万引き、危険運転、薬物使用など)。
自殺行動、自殺演技、自殺の脅し、自傷行為を繰り返す。
気分が急激に変化する(通常は数時間程度しか続かず、数日以上続くことはまれである)。
慢性的に空虚な気持ちを抱く。
不適切な強い怒りを抱き、または怒りをうまくコントロールできない。
ストレスがかかることにより、一時的に妄想性の思考をし、または重度の乖離症状(一時的に記憶がなくなるなど)に陥る。

境界性パーソナリティ障害の原因は、主に遺伝と環境が関わっていると言われています。
家族、特に両親が境界性パーソナリティ障害を持っている場合には、発症の可能性が高まります。
また、境界性パーソナリティ障害の患者は、幼少期に養育者から虐待を受けたり、養育者と離別・死別したりしていることが多いです。

境界性パーソナリティ障害と離婚

配偶者と離婚をするための手続は、まずは夫婦間で離婚協議(話し合い)をし、協議がまとまらない場合には、家庭裁判所に離婚調停を申し立てます。
そして、調停でも夫婦間で合意に至らない場合には、家庭裁判所に離婚訴訟を提起し、解決を求めることとなります。

別居と離婚協議

上記のような特徴を持つ境界性パーソナリティ障害の配偶者との離婚は、一筋縄ではいきません。
同居したままの離婚協議は、特に精神的な疲弊が大きいでしょう。
境界性パーソナリティ障害の人は、パートナー無しの生活が精神的に耐えられず、別れようとしても必死にしがみつき、絶対に別れようとしないことが少なくありません。
また、離婚を切り出されれば激高し、罵詈雑言などの激しい言動に走ったかと思えば、しばらくすると反省し、謝罪して「こんなことはもうしないから、やり直そう」等と言ってくるなど、あなたを精神的に揺さぶってくることが考えられます。

そのため、離婚協議を行うのであれば、まずは別居してから、というのが鉄則です。
そして、別居した後であっても、境界性パーソナリティ障害の配偶者は、メール、LINE、電話などで頻繁に連絡を取ってくることがあります。
上記のような激しい言動を見せたかと思えば謝罪をして許しを求め、あなたを精神的に揺さぶろうとしてくることが考えられますが、とにかく妥協せずに一貫して離婚を求める態度を貫くことです。

弁護士に依頼する

境界性パーソナリティ障害の配偶者は、すんなりと離婚に応じてくれることはあまり期待できず、円満な解決が難しいことが多いです。
夫婦同士で合意に至ることが難しいと考えられるのであれば、次のステップに進むとよいでしょう。

境界性パーソナリティ障害の配偶者と直接やり取りをするのは、精神的に非常に辛いものです。
弁護士に離婚協議を依頼すれば、弁護士があなたの代理人として配偶者との交渉窓口となりますので、精神的な負担は大きく軽減されます。
弁護士の活用をご検討いただくことをお勧めいたします。

離婚調停と離婚訴訟

協議(話し合い)による解決が難しいのであれば、家庭裁判所に離婚調停を申し立てることとなります。
離婚調停では、調停委員が仲介者となり、合意形成に向けた話し合いが行われます。
離婚調停の手続にご自身だけで対応していくのはご負担も大きいと思いますので、離婚問題に精通した弁護士にご依頼いただくことをお勧めいたします。

境界性パーソナリティ障害の人は、配偶者と離婚することが精神的に耐えられず、必死にしがみついて離婚を決して受け入れないことも多いです。
涙ながらに「配偶者を愛している」、「離婚をするなら自殺する」などの発言を繰り返したかと思えば、自分の思うとおりに調停が進まないと、態度を豹変させて攻撃的になり、調停委員に食ってかかるなどの言動に出ることも少なくありません。
このように、離婚調停における合意形成が難航することも少なくありませんので、調停がまとまらない場合には、家庭裁判所に離婚訴訟を提起するということも想定しておく必要があります。
離婚訴訟の手続は、非常に複雑なものとなりますので、弁護士のサポートがなければ適切に対応していくことは難しいでしょう。

離婚訴訟で離婚を認める判決を得るためには、法律上の離婚原因に該当する必要があります。
法律上の離婚原因は、民法770条1項により、①不貞行為(不倫・浮気)、②悪意の遺棄(夫婦間の同居・協力・扶養義務に違反すること)、③3年以上の生死不明、④回復の見込みのない強度の精神病、⑤その他婚姻を継続し難い重大な事由、です。
上記④の「回復の見込みのない強度の精神病」は、重度の統合失調症等により、夫婦間の精神的交流が失われ、夫婦関係が形骸化しているような場合を想定しており、境界性パーソナリティ障害の場合の問題ではありません。
該当する可能性があるのは、上記⑤の「その他婚姻を継続し難い重大な事由」であることが多いでしょう。
この場合、境界性パーソナリティ障害の配偶者の言動や夫婦関係の破たんの状況などを主張・立証していくこととなりますが、具体的な対応は弁護士にご相談ください。

境界性パーソナリティ障害とDV・モラハラ

DV(配偶者暴力)やモラハラ(モラルハラスメント)の加害者が境界性パーソナリティ障害を持っていることも少なくありません。
DVやモラハラの被害による離婚をお考えの方は、次の関連記事もご覧ください。

【関連記事】
●DV・暴力の被害による離婚について
●モラハラの被害による離婚について

弁護士にご相談ください

以上のとおり、境界性パーソナリティ障害の配偶者との離婚は、一筋縄では解決しないことが多く、弁護士の介入や離婚調停、離婚訴訟による解決が必要となることが想定されます。
当事務所では、離婚問題に関するご相談・ご依頼を多数お受けし、解決実績も豊富にございますので、お困りの方はお気軽に当事務所にご相談いただければと存じます。