配偶者との離婚を考えたときに、「配偶者が自己愛性パーソナリティ障害であると思われる」というケースがあります。
以下では、自己愛性パーソナリティ障害の特徴や離婚に向けた対応について、ご説明させていただきます。

自己愛性パーソナリティ障害とは

自己愛性パーソナリティ障害とは、自身に対する誇大なイメージを持ち、注目や称賛を欲求する一方で、否定的な評価を受けると過剰に落ち込みやすく、他者に対する共感性が低いことを特徴とする障害のことです。
自己愛性パーソナリティ障害には、より具体的に、以下のような特性があります。

自分が重要であるという誇大な感覚を持っている。
成功、権力、才能に限りなく憧れる。
自分が特別であると思っている。
過剰な賞賛を求める。
特権意識があり、特別な配慮や待遇を求める。
自分の目的のために相手を不当に利用する。
相手の気持ちに対する共感が欠如している。
他者に嫉妬することが多く、他者から嫉妬されていると思い込む。
尊大で傲慢な行動や態度をとる。

そして、自己愛性パーソナリティ障害の人は、自分の症状に無自覚なことがほとんどです。

自己愛性パーソナリティ障害とモラハラ

自己愛性パーソナリティ障害は、モラハラ(モラルハラスメント)に繋がりやすいです。
モラハラとは、家庭内のいじめのようなものであり、精神的な虐待、言葉や行動・態度による嫌がらせのことです。
自己愛性パーソナリティ障害の配偶者から、見下される、罵倒される、召使いのように扱われるなどのモラハラを受け、苦しめられるケースが多くなるでしょう。
しかも、自己愛性パーソナリティ障害の配偶者は、自分が精神的な虐待を加えて苦しめているという自覚がないため、モラハラが直ることなくエスカレートしていきやすいです。

モラハラの被害から逃れるためには、別居および離婚を検討するのがよいでしょう。
モラハラの被害による別居や離婚をお考えの方は、まずは専門家である弁護士に今後の対応をご相談いただくことをお勧めいたします。

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自己愛性パーソナリティ障害とDV

DV(配偶者暴力)の加害者が自己愛性パーソナリティ障害を持っていることも少なくありません。

配偶者からDVを受けている場合には、可能な限りDVの証拠を集めたうえで速やかに避難(別居)を進め、関係機関への相談や保護命令の申立てを行うなどの対応をとる必要があります。
そして、DVの加害者との離婚を安全に進めるためには、弁護士を代理人に立てて、離婚協議(話し合い)や調停の手続に臨むことをお勧めいたします。

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自己愛性パーソナリティ障害と離婚

離婚を成立させるための手続は、まずは夫婦間で離婚協議(話し合い)をし、協議がまとまらない場合には、家庭裁判所に離婚調停を申し立てることとなります。
そして、調停でも合意に至らない場合には、家庭裁判所に離婚訴訟を提起し、解決を求めることとなります。

自己愛性パーソナリティ障害の配偶者との離婚は、協議(話し合い)によって解決することが困難という特徴があります。
調停を申し立てたとしても、合意の形成が難航することが想定されます。
なぜなら、自己愛性パーソナリティ障害の人は、自分が常に正しいと思い込んでおり、離婚を求められる筋合いはないと考えるからです。
また、自己愛性パーソナリティ障害の人にとって、離婚とは社会的な失敗であり、優秀な自分が離婚という失敗をすることは受け入れられないため、離婚を拒否する態度をとることが多いです。

そして、自己愛性パーソナリティ障害の人は、子どもの親権を決して譲ろうとせず、親権争いとなれば平気で子どもを連れ去ることも考えられます。
さらに、別居後の婚姻費用(生活費)を支払わないため、婚姻費用分担調停の申立てや給料等の差押えが必要となることも多いでしょう。

このように、自己愛性パーソナリティ障害の配偶者との離婚では、離婚を拒否されることが多いですし、子どもの問題やお金の問題などで争いとなることが予想されます。

配偶者が離婚を拒否する場合の対応

自己愛性パーソナリティ障害の配偶者が離婚を拒否する場合には、まずは別居をし、家庭裁判所に離婚調停と婚姻費用分担調停を申し立てます。
婚姻費用分担調停の成立または審判(調停で合意が成立しなければ、審判の手続に移行し、裁判官が毎月の婚姻費用の額を決定します)の確定があれば、配偶者から毎月生活費の支払を受けることができますし、支払わない場合には給料等を差し押さえることができます。

自己愛性パーソナリティ障害の配偶者との離婚調停は、合意の形成が難しいことも多いです。
調停がまとまらずに不成立で終わった場合には、離婚訴訟を提起することとなります。
配偶者が離婚を拒否する場合に、裁判官に離婚を認める判決を下してもらうためには、法律上の離婚原因が必要です。
法律上の離婚原因は、民法770条1項により、①不貞行為(不倫・浮気)、②悪意の遺棄(夫婦間の同居・協力・扶養義務に違反すること)、③3年以上の生死不明、④回復の見込みのない強度の精神病、⑤その他婚姻を継続し難い重大な事由、です。

自己愛性パーソナリティ障害は、上記④の「回復の見込みのない強度の精神病」には該当しません。
これは、重度の統合失調症等により、夫婦間の精神的交流が失われ、夫婦関係が形骸化しているような場合を想定しており、自己愛性パーソナリティ障害の場合の問題ではありません。

該当する可能性があるのは、上記②の「悪意の遺棄」や上記⑤の「その他婚姻を継続し難い重大な事由」です。
DVの事実や相当ひどいモラハラの事実が立証できるのであれば、上記⑤の「その他婚姻を継続し難い重大な事由」があると判断されます。
また、夫婦別居状態となって4~5年経過していれば、上記⑤の「その他婚姻を継続し難い重大な事由」があると判断される可能性が高いでしょう。
配偶者が生活費を渡してくれないのであれば、上記②の「悪意の遺棄」に該当する可能性がありますが、単に夫婦間の同居・協力・扶養義務に違反するだけでは足りず、その違反が積極的に夫婦関係を破たんさせる意図のもとに行われたと認められることも必要です。
上記②の「悪意の遺棄」に該当すると認められる事案は、実際には多くはありません。

なお、配偶者が不倫・浮気をした場合には、①不貞行為により離婚することができます。

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弁護士にご相談ください

以上のとおり、自己愛性パーソナリティ障害の配偶者との離婚は、すんなりと解決に至らないことが多く、離婚調停や婚姻費用分担調停、離婚訴訟の手続を利用する必要があることが想定されます。
そのため、自己愛性パーソナリティ障害の配偶者との離婚をお考えの方は、まずは離婚問題に詳しい弁護士にご相談いただくことをお勧めいたします。
当事務所では、これまでに、離婚問題に関するご相談・ご依頼を多数お受けし、解決実績も豊富にございます。
ぜひ一度、お気軽に当事務所にご相談いただければと存じます。