医師は他の職業と比較して離婚率が高いと言われており、高収入であることから離婚の際にお金に関することが問題となりやすいという特徴があります。
このページでは、医師の夫との離婚における諸問題について、ご説明させていただきます。

1 夫が医師の夫婦のよくある離婚原因

医師は収入が高い一方で、病院での寝泊りや急患への対応など、仕事が激務の方が多く、職場環境も独特です。
このような要因から、夫が医師である場合には、以下のように様々な理由で離婚に至るケースが考えられます。

(1)家事・育児の不協力

勤務形態によって多少の差があるものの、医師は基本的に多忙な方が多いです。
日々の業務の他に、夜勤や休日出勤などイレギュラーな勤務体系であるとか、学会への参加などの出張もあることから、家を空けることが多くなります。
また、激務であることから、家には寝るために帰ってくるだけ、という方もいらっしゃいます。
医師である夫がこのような生活リズムをとっている以上、必然と、家事・育児のほとんどすべてを妻が担わざるを得ません。
空いている時間に、積極的に家事・育児をする夫であるならともかく、自分や仕事を優先し家庭を顧みないようであれば、妻の不満が溜まり、離婚を視野に入れるようになるのは当然のことといえます。

(2)職場不倫

医師の職場環境として、他の職業に比べ、看護師等の医療従事者や出入り業者、患者など異性と関わる機会が多いという特徴が挙げられます。
そのため、日々のストレスを解消するために、職場関係者と不貞行為をしてしまう方もいます。
また、上記のように、医師は家を空けることが多いことから、不倫が露見しにくいことも不貞行為を助長する一因となっています。

(3)DV・モラルハラスメント

医師の方は、小さいころから勉強に多くの時間を充て、難易度の高い大学や医師国家試験を突破したエリートです。
そのため、自分の力で社会的地位を築いてきたという自負から、プライドが高い方が多い傾向にあります。
プライドが高いことは、医師の仕事をする上でプラスに働くことがありますが、家庭内でも職場と同じような態度をとるようであれば、夫婦不仲になるでしょう。
そして、単なる口論をするだけであればまだよいものの、日々のストレスも相まってDVやモラルハラスメントをするようであれば、夫婦関係を続けていくことは困難でしょう。

2 夫が医師の場合の財産分与のポイント

このように医師の夫との離婚を決断する理由は様々ですが、医師は一般的に高収入であることから、離婚の際には財産分与の対象となる財産も高額になる傾向があります。
もっとも、医師の場合、他の職業とは異なり、勤務形態によって財産分与の対象が異なるので、勤務形態ごとに分けてご説明いたします。

(1)開業医(自営)の場合

夫が開業医の場合、法的には自営業者としての扱いになることから、基本的には事業用資産についても財産分与の対象となります。
また、退職金はありませんので、私的年金や保険・共済といった備えをしている可能性が高いです。
もっとも、いかに妻が夫を支えてきたとはいえ、事業売上やこれによって投資された事業用資産は、開業医としての夫の経営手腕や医師としての資質によるところが大きいです。
そのため、財産分与にあたって、特に事業用資産については、通常であれば2分の1ずつ分けられる「2分の1ルール」とは異なり、修正した割合での財産分与がなされる可能性が高いと考えられます。

(2)医療法人を経営している場合

医療法人の名義となっている資産については、夫の所有物ではなく医療法人の所有物であるため、原則として財産分与の対象外となります。
もっとも、財産分与の多くのケースでは、名義上は医療法人名義であるものの実質的には夫の財産である場合や、夫個人の財産と医療法人の資産が混同している場合があります(特に、財産分与の支払額を少なくするために、財産隠しの方法として医療法人名義に変更する、ということがあり得ます)。
このような場合には、実質的には夫の財産として扱われる場合が少なくありません。
また、医療法人の経営者の場合、医療法人への出資金を拠出している場合がほとんどですので、このような出資金についても財産分与の対象となります。
なお、財産分与にあたって、「2分の1ルール」が修正される可能性がある点については、開業医の場合と同様です。

(3)勤務医の場合

これらに対し、夫が勤務医の場合は、給与所得者となるため基本的には一般の会社員と同じ扱いになります。
そのため、退職金も財産分与の対象となり、厚生年金に加入していれば年金分割も可能になります。
なお、開業医や法人経営の場合と同様、夫からは2分の1ルールの修正を主張されることが予想されます。
しかし、他の職業に比べて給料が高いとはいっても、上記のように、法的には一般の会社員と同じ扱いであるため、2分の1ルールの修正が認められにくいといえます。

3 夫が医師の場合の子どもの問題

(1)跡継ぎをめぐって親権を主張されたら

離婚にあたって、金銭の問題と同様に争われやすいのが子どもの親権です。
特に、夫やその両親は、子どもを跡継ぎとしたいがために親権を主張してくることが考えられます。
しかし、親権者を父母のいずれかとすべきかは、これまでの子どもの監護状況や離婚後の監護環境が重視されます(逆に、不貞行為の有無はあまり影響しません)。
この点、上記のように、医師である夫に比べ妻の方が育児に携わっていることが多いと思われますので、一般的には、妻が親権者となる可能性が高いでしょう。

なお、夫からは、経済的に余裕のある夫が親権を獲得するべき、と主張してくることが考えられます。
しかし、子どもが成長していく上で、必ずしも経済的に余裕がある側で育てる方が望ましいとは言えません。
そして、妻としては、親権者となった場合には夫から養育費を受け取ることができるため、生活に困窮することは考えにくいです。
そのため、夫側が経済力を背景に親権を主張してきても、これに臆する必要がありません。

(2)子どもの学費などの養育費は?

子どもの養育費の金額は、夫婦間の話し合いで決めた金額があるのであれば、それが優先されます。
もっとも、実際には、そもそも話し合いができない、あるいは、お互いの希望額に開きがあり平行線であるという場合が多いでしょう。
このように話し合いで決めることができない場合には、家庭裁判所で使用されている算定表をもとに決めることが一般的です。
算定表では、夫婦の収入、子どもの人数及び年齢をもとに、一か月あたりに養育費が算出されます。

もっとも、算定表では、養育費を支払う側の収入については2000万円(自営業者は1567万円)までしか記載されていません。
その一方で、医師の年収が2000万円以上であることは珍しくありません。
このような場合、最終的には裁判官の判断に委ねられるのですが、年収が上がるにつれて養育費の金額も比例して上がっていく、という判断はとられていないことが多いです。
そもそも養育費というのは、子どもが社会人として自立するまでに必要になる費用です。
そしてその内訳は、そのほとんどが衣食住費、教育費、医療費、娯楽費といったものですが、収入が高くなるにつれてこれらにかける費用も比例するわけではありません。
このようなことから、算定表の上限額である年収2000万円の場合として判断していることが多く見られます。

なお、親が医者の場合、その子どもも医学部に進学することが多く、その結果、他の家庭に比べて教育費が高額になりがちです。
そのため、これらの教育費を踏まえた養育費の金額、あるいは、別途協議することを前提とした取り決めをする必要があります。

4 慰謝料の請求について

慰謝料については、財産分与や養育費と異なり、その金額の算定にあたって、特段、医師であるによって左右されることはありません。
もちろん、不貞行為やDVの被害を受けた場合には、慰謝料を請求することができます。
しかし、慰謝料はこれらの被害を受けたことによって生じた精神的苦痛を金銭で評価したものです。
そして、精神的苦痛というのはどのような被害を受けたかによって変わるものであって、加害者(医師)の収入がいくらであるかによって左右されるものではありません。
このようなことから、夫に対して慰謝料請求をする場合、医師であるかどうか、あるいは、高収入であるかどうかは金額に影響しません。

5 弁護士にご相談ください

当事務所では、離婚に関するご相談・ご依頼を多数お受けしております。
医師の夫との離婚についてお悩みの方がいらっしゃいましたら、お気軽に当事務所にご相談いただければと存じます。