近年、配偶者がASDやADHDであることが、離婚を考える原因のひとつになっています。
ここでは、配偶者がASDやADHDの場合に、離婚を考える際の主な注意点についてご説明いたします。

ASD・ADHDとは

ASD・ADHDは、いずれも先天的な脳の障害と考えられている発達障害のことをいいます。
ASDとは、自閉スペクトラム症と呼ばれる障害のことをいいます。
かつては自閉症、アスペルガー症候群、広汎性発達障害など様々な名称で呼ばれていましたが、現在ではまとめてASD(自閉スペクトラム症)と呼ばれています。
ASDは、言語の発達や知的な発達には遅れがないものの、想像力や社会性、コミュニケーションに障害があります。
また、ASDは、特定の事柄に強いこだわりを持っていたり、感覚の過敏さを持っていたりすることがあります。
他方、ADHDとは、注意欠陥多動性障害と翻訳される障害のことをいいます。
ADHD(注意欠陥多動性障害)の特徴的な症状としては、主に、不注意(集中力が持続せず、年齢に見合わない注意力の欠如)、多動性(動きが多く、じっとしていられない)、衝動性(思いついたことをよく考えずに、突発的に行動してしまう)が見られます。

カサンドラ症候群について

ASD・ADHDの配偶者との関係性に悩み、心的ストレスから不安障害や抑うつ状態などの心身症状が起きてしまうことがあります。
これをカサンドラ症候群と言います。
カサンドラ症候群の特徴として、睡眠障害、抑うつ状態、自己肯定感の低下などがあります。

離婚を決める前にした方がよいこと

ASD・ADHDの配偶者との生活に苦痛を感じ、離婚を希望する方もいらっしゃいます。
しかし、ASD・ADHDだけを理由に離婚をすることは容易ではありません。

そこで、離婚を決める前に、カウンセラー・アドバイザーなどの専門家に悩みを相談するという対応が考えられます。
また、ASD・ADHDを一つの個性・性質ととらえ、関係性の再構築を試みるという対応もあり得ます。

しかし、それでもASD・ADHDの配偶者との夫婦関係の維持が難しければ、離婚に向けた対応を進めていくこととなるでしょう。

ASD・ADHDの配偶者との離婚

ASD・ADHDの配偶者と離婚することを決意し、相手方に離婚の意思を伝えても、相手方が気持ちを理解してくれず、話し合いで離婚をすることが難しい場合があります。
話し合いで離婚することが難しい場合、裁判所の手続を利用する調停離婚や、最終的には裁判での離婚を考えなければならないこととなります。

調停手続での離婚の話し合いがまとまらず、裁判での離婚を考える場合、民法770条に定められている以下の離婚事由に該当するかどうかがポイントとなります。

・不貞行為(不倫)
・悪意の遺棄(同居せず、生活費も渡さないなど)
・3年以上の生死の不明
・強度の精神病にかかり、回復の見込みがない
・その他婚姻を継続し難い重大な事由がある

ASDやADHDは、「回復の見込みがない」とはいえますが、入院や介護が必要ではないケースがほとんどですので、「強度の精神病」に該当しないと判断されることが多い傾向にあります。
そのため、ASD・ADHDだけを理由に離婚をするのは難しいと言えます。
他方、長期間別居しているという事情や、同居していたとしても、ASDやADHDの症状に付随して、重大な侮辱行為がある等の事情があれば、実質的に夫婦関係が破綻しているとして、「その他婚姻を継続し難い重大な事由がある」と認められることもあります。

ASD・ADHDの配偶者に対する慰謝料請求

ASD・ADHDであることだけを理由として配偶者に対する慰謝料請求をすることはできません。
ASD・ADHDは先天的な障害であり、障害の存在それ自体に落ち度を求めることはできないからです。

しかし、ASD・ADHDの配偶者から日常的に暴言を浴びせられたり、侮辱されたりした場合には、モラハラを理由とする慰謝料を請求できる可能性があります。
また、ASD・ADHDの配偶者による不倫・浮気やDV(暴力)が離婚の原因となっている場合にも、慰謝料を請求できる可能性があります。

ASD・ADHDの配偶者との生活に悩んでいる方へ

ASDやADHDの配偶者の場合、パートナーの体調を考慮してくれなかったり、パートナーが配偶者の突発的な行動についていけなかったりして、様々な悩みを抱えてしまうケースが散見されます。
さらに、パートナーの方が悩みを抱え込みすぎて、心的ストレスから不安障害や抑うつ状態などの心身症状が起きてしまうこと(カサンドラ症候群)もあります。

既にASDやADHDの配偶者と離婚したいという意思が固まっている方は、ご自身の精神面をケアする意味でも、一度専門家に相談してみることをお勧めします。
さらに、弁護士に依頼することにより、あなたが相手方と直接交渉する必要がなくなりますので、精神的な負担を軽減することができます。
お困りのときはお気軽に当事務所にご相談ください。