民法752条では「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。」と定められています。
夫婦は民法752条による同居義務に基づいて、夫婦としての同居を行うための場所を定めます。
そして、夫婦のうち一方の単独名義となっている住宅で夫婦生活を送るという形態もよく見られます。

※以下、住宅の名義人となっている側の配偶者を「所有配偶者」、住宅の名義人となっていない側の配偶者を「非所有配偶者」といいます。

ここで、結婚後に購入した住宅は、夫婦共有財産に当たるのが通常です。
しかし、所有配偶者の単独名義となっているのであれば、所有配偶者が単独で住宅を売却することも可能です(夫婦共有財産というのは、「離婚時の財産分与において清算の対象となり得る」という意味であり、「単独名義となっている場合であっても、売却等の処分をするには夫婦双方の同意が必要となる」ということを意味するものではありません)。
所有配偶者が住宅ローンの返済負担を軽減したいなどの理由により、住宅を売却したいと考える例も少なくないと考えられます。
一方で、この場合、非所有配偶者には居住の権利は認められないのか?ということが問題となり得ます。

この点、非所有配偶者の居住権の保護については明文がなく、様々な見解が存在するのですが、同居義務を根拠に、「非所有配偶者は、所有配偶者の名義となっている不動産について、使用権限を持つ」とする見解が有力です。
そして、所有配偶者からの明渡請求に関する裁判例でも、同居義務を根拠に非所有配偶者の居住権限を認め、「明渡請求を正当とする特段の事情がない限り、居住権限は離婚成立まで存続する」と判断されています(東京地方裁判所昭和45年9月8日判決、東京地方裁判所平成元年6月13日判決)。
なお、「婚姻関係の破たんの責任がある側が居住権を主張することは権利の濫用に当たる」として、明渡請求を認めた裁判例もあります(東京地方裁判所平成3年3月6日判決)。

したがって、所有配偶者が住宅を第三者に売却しようと考えている場合において、非所有配偶者にこの住宅の明渡しを求めることは、特段の事情がない限り認められないと考えられます。

ただし、以上の考え方は、夫婦間の関係における居住権限の保護の問題であり、第三者との関係での居住権の保護は考えられていません。
したがって、所有配偶者から住宅を購入した第三者が非所有配偶者にこの住宅の明渡しを求めた場合、原則として非所有配偶者は明渡請求を拒否できないと考えられます。
もっとも、専ら非所有配偶者を住宅から立ち退かせることを目的として、住宅を活用する予定のない所有配偶者の親族・関係者等に名義変更したような場合には、権利の濫用に当たると判断され、明渡請求が認められない可能性もあるでしょう。