「算定表」に当てはめて養育費・婚姻費用を計算できる義務者の年収(給与)は、2000万円までとなっています。
そのため、義務者の年収が2000万円以上の場合、「算定表」を見ても養育費・婚姻費用の金額がいくらになるのか明らかではありません。
では、義務者の年収が2000万円以上ある場合、養育費・婚姻費用の金額はどのように考え、計算すればよいのでしょうか。

ここでは、以下のような2つの異なる考え方があります。

①夫婦間の協力・扶助義務(民法752条)や、親の未成年の子どもに対する監護・教育義務(民法820条)は、『生活保持義務』といって、自分と同じレベルの生活を配偶者や子どもに保持させるという強い扶養形態の義務ととらえる考え方があります。
この考え方からすれば、義務者の年収に応じて、婚姻費用や養育費の金額も増加していくという考え方につながっていきます。

②年収が高い人は、収入の全てを毎月・毎年使い切るわけではなく、貯蓄に回す部分が増加するのであって、義務者の収入に応じて、婚姻費用や養育費の金額が増加するわけではないという考え方もあります。
この考え方からすれば、「算定表」の2000万円のゾーンの金額で頭打ちにする、あるいは、「算定表」の金額より増加するにしても、収入に応じて当然に増額するわけではないという考え方につながっていきます。

どのように考えるかは、最終的には裁判官の判断に委ねられるわけですが、実務上は、おおむね次のように考えられています。

婚姻費用について

婚姻費用については、年収が2000万円に比較的近い場合には、基本的に「算定表」の上限額である2000万円のゾーンの金額で認定するようです。
年収が2000万円を大幅に超える場合には、夫婦双方がどのように生活してきたかも踏まえて、公租公課(税金)は実額を用いたり、どのくらい貯蓄に回しているのかを考慮したり、また、住宅関係費用などの特別に支出する金額を除くことを柔軟に認めるなどして、事案ごとの事情を考慮して計算の基礎となる収入額に修正を加えるなどの判断をしているようです。

養育費について

養育費については、子どもが社会人として自立していくために必要となる費用という性格から考えます。
養育費には、衣食住費、教育費、医療費、娯楽費等が含まれますが、このような費用として、例えば1ヶ月に100万円も使うことは、あまり考えられません。

そのため、子どもが1人の場合の養育費については、基本的には「算定表」の上限額である2000万円のゾーンのところにある金額とすることで足りるとしているようです。
子どもが2人以上の場合には、子ども1人の場合の養育費の考え方を参考にしつつ、事案ごとに個別的事情を考慮して検討しているようです。

具体的な算定例

以下の解説は、「算定表」の元となる「標準算定方式」を前提とする内容であり、少々複雑なものとなります。
「標準算定方式」については、次の解決記事をご参照ください。
●養育費の標準算定方式による計算
●婚姻費用の標準算定方式による計算

義務者の年収が2000万円以上の場合の裁判例を紹介すると、所得が上がるにつれて生活費も同じ割合で上昇するという性質のものではないので、高額所得者の基礎収入割合はそうでない者に比較して小さくなることから、基礎収入割合を32%として『基礎収入』を算出した裁判例があります(なお、当時の標準的な基礎収入割合は34%~42%とされていました)。

この裁判例のように高額所得者の基礎収入割合を32%とすると、たとえば婚姻費用はどのように計算されるのでしょうか。
裁判例で32%とした理由も含めて、具体的な事例をあげて、説明します。

【事例】
医師である夫の年収が4000万円、妻はパートで年収が150万円、子どもが1人(1歳)、夫婦が別居して、妻が監護者として子どもを育てている場合

<計算式>

①権利者(妻)世帯に割り振られる婚姻費用を算出する
(夫の基礎収入+妻の基礎収入)×妻世帯の生活費指数÷世帯全体の生活費指数
②義務者(夫)から権利者(妻)に支払われる婚姻費用分担額を算出する
①-妻の基礎収入
<事例における計算>

①妻と子の世帯に割り振られる婚姻費用を算出すると、
(1280万円+66万円)×162÷262≒832万円
となります。

A 基礎収入=総収入×基礎収入割合
・ 夫の基礎収入=4000万円×32%=1280万円
・ 妻の基礎収入=150万円×44%=66万円
(妻の年収に応じた現在の標準的な基礎収入割合は44%となります)

基礎収入とは、総収入から税金、社会保険料などの必ず支出する費用を控除した、純粋に生活費に充てられる分の収入のことをいいます。これが、養育費や婚姻費用を計算するための基礎となる収入であると考えるわけです。

基礎収入割合とは、実際の収入から必ず支出する費用(税金などの公租公課、職業費、特別経費)を除いた割合、言い換えれば、総収入のうち生活費に充てられる分の割合のことをいいます。

「標準算定方式」では、簡易迅速に算定するため、統計などに基づいて、この生活費に充てられる分の割合を指数化し、基礎収入割合を38%~54%としています(なお、裁判例の当時は34%~42%)。

ところで、生活費は、必ずしも収入に比例するわけではありません。
つまり、収入が上がるにつれて生活費も同じ割合で上昇するという性質のものではないのです。
したがって、高額所得者の基礎収入の割合は、そうでない者に比較して小さくなると考えられます。

この考え方から、年収2000万円を超える高額所得者の場合に、裁判例では当時の「標準算定方式」の基礎収入割合の下限であった34%よりもさらに低く32%として計算すると考えたわけです。

B 生活費指数
・ 妻世帯の生活費指数=100+62=162
・ 世帯の生活費指数=100+100+62=262
生活費指数とは、世帯の収入を、世帯を構成するメンバーに、どのように振り分けるべきかを示す指数のことです。現在の標準的な生活費指数は、生活保護基準及び教育費を考慮して、親は100、0~14歳の子は62、15~19歳の子は85とされています。

②夫から妻に支払われる婚姻費用分担額を算出すると、
832万円-66万円=766万円
となり、これは年額ですので、月額にすると約63万8000円となります。

この約63万8000円が、夫から妻へ毎月支払われる婚姻費用として計算された額ということになります。
いずれにしても、事案ごとに個別的事情を考慮して検討しているようです。

算定表についてはこちらもご覧下さい

●養育費・婚姻費用の算定表について
●養育費の標準算定方式による計算
●婚姻費用の標準算定方式による計算
●年金受給者の養育費・婚姻費用の計算
●養育費・婚姻費用の算定表にないタイプの場合について
●義務者の年収が2000万円以上の場合の養育費・婚姻費用
●養育費・婚姻費用の特別費用について
●養育費・婚姻費用の支払始期(いつから支払義務が発生するか?)
●養育費の支払終期(何歳まで支払うのか?大学等に進学する場合は?就学を終えても無収入・低収入の場合は?)